率直に言う テスラ「高級EV撤退 = 敗北」という考えは間違いだ――61%減益の渦中で下した“スペック競争”との決別
想定される反論

筆者の見方に対しては、いくつか想定される反論がある。
まず「BYDはEVで成功しているではないか」という指摘がある。ただし、その成功は高級車に支えられたものではない。電池を自前で手がけることでコストの流れを自社のなかに収め、車種を広げて量を確保してきた点にある。
BYDが製造工程を深く掘り下げることで競争力を築いてきたのに対し、テスラはAIを幅広く使える形に育てる方向へ力点を移している。両社は同じEVメーカーとひとくくりにできる関係ではなくなりつつある。同紙によれば、マスク氏は「ヒト型ロボットで最も手ごわい相手は中国になる」と語っている。中国にはすでに150社を超えるロボット関連企業があるとされ、テスラが向き合う相手は、特定企業というより国家規模の競争へ広がっている。
次に、「高級車の市場は今後も一定数残るのではないか」という見方だ。この点については、市場が消えるわけではないものの、成長を見込める分野とはいい難く、性格としては限られた需要に支えられる領域へ移っていく。生産終了が決まった「モデルS」と「モデルX」は、価格が9万5000ドル前後からと高く、主力の「モデルY」と比べて販売は伸び悩んでいた。内装の質感や静けさといった価値は、長年の実績を持つ既存メーカーが強みを発揮する分野だ。テスラはそこではなく、自律性という別の物差しで優位を築こうとしている。
最後に、「テスラは原点を捨てたのではないか」という批判がある。しかし実際には、EVを最終目的とするのではなく、移動の質を高めるための手段へ位置づけ直したに過ぎない。車を一台ごとに完結した商品として扱うのではなく、社会全体を支える基盤の一部として捉える姿勢がそこにある。この転換は、創業時に掲げた志を捨てる動きというより、より広い範囲で実現しようとする延長線上にあると見る方が自然だろう。