率直に言う テスラ「高級EV撤退 = 敗北」という考えは間違いだ――61%減益の渦中で下した“スペック競争”との決別
高級EV撤退の意味合い

今回の生産中止を巡る報道に対し、ネット上では高級EVからの撤退を
「売れなかったから」
「戦略がなかったから」
といったような声が目立つ。だが、そうした反応はやや短絡的だ。テスラは2003年に米国で創業し、気候変動への対応や持続可能な交通の実現を掲げて成長してきた企業である。長く使われてきた経営指針には「持続可能な豊かさ」という言葉があった。しかし、同社は2025年12月、この文言を高度なAIによってモノやサービスが不足しない社会を志向する「驚くべき豊かさ」へと切り替えている。この変化は、EVとエネルギー事業を柱に市場を切り開いてきた創業期の役割が、次の段階に移ったことを示している。
テスラの歩みを振り返ると、スポーツカー型EV「ロードスター」で注目を集め、その後2012年に高級セダン「モデルS」、2015年にはSUVの「モデルX」を投入した。長い航続距離や、ソフトウェア更新によって性能が変わる車という考え方は当時、新鮮だった。一方で、この間に比亜迪(BYD)をはじめとする中国勢が、独自の電池技術を背景に価格を抑えたEVを次々と世界市場へ送り出している。地域ごとの所得水準や需要の違いもあり、高級路線を主軸にしてきたテスラは、次第に販売面で後れを取る場面が増えた。
EV市場の競争は、個々の車の性能だけを比べる段階をすでに越えている。自動運転の進展とともに、どの技術を束ね、どう展開するかが問われる状況に移りつつある。加速性能や航続距離を伸ばせば価値が上がるという単純な構図は成り立ちにくくなり、物理的な性能差がもたらす満足度も頭打ちに近づいている。
それでも多くの報道は、車種や販売台数、補助金の話題に重心を置いたままで、参入の構図がどう変わっているのかを十分に伝えていない。こうした前提に立てば、テスラがEVと自動運転を軸に進むという見方が出てきたのも自然だろう。実際、マスク氏は「少し寂しさはあるが、自動運転の未来に本格的に向かう時期だ」と語っているようだ(『日本経済新聞』2026年1月30日付け)。だが、同社が今回選んだ進路はヒューマノイドロボットだった。
推論用チップや学習用の大規模計算基盤、物理的な知能を制御する基盤へと注力の重心を移したことは、車という完成品を前提にした競争から距離を置く姿勢を示している。日本経済新聞は、米エヌビディアが公開型の開発基盤を打ち出し、中国のファーウェイが車両開発を主導する例を挙げ、競争相手が従来の自動車メーカーからAI技術を握る企業へ変わりつつある現状を指摘した。
テスラが持つDX分野での実力を踏まえれば、EVという枠内での収益性が先細りする可能性を、同社がかなり早い段階で見ていたとしても不思議ではない。