率直に言う テスラ「高級EV撤退 = 敗北」という考えは間違いだ――61%減益の渦中で下した“スペック競争”との決別

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テスラが高級EV「モデルS」「モデルX」の生産終了を決めた。最終利益61%減、売上高も初の減収。工場をロボット生産へ振り向けた判断は、EV競争の次を映す。

残る車種が示す戦略

テスラ(画像:Pexels)
テスラ(画像:Pexels)

 筆者(近澤眞吉、モータージャーナリスト)は、テスラがEV事業から手を引くとは見ていない。2017年以降、価格を抑えた大衆向けセダンの「モデル3」、続いてコンパクトSUVの「モデルY」を投入してきた。これらは販売の裾野を広げ、2023年の年間納車台数は約181万台に達している。

 この水準を保つこと自体が、ニューラルネットワークの学習に欠かせないエッジケースを集めるための、十分な規模を確保する行為でもある。テスラにとって主力車種は、世界各地に配備されたデータ収集の端点であり、推論を現場で実行する計算拠点として機能してきた。今回の判断は高級2車種の生産中止にとどまり、2025年から2026年にかけて主力車の改良版や廉価版を出す計画に変更はない。販売戦略の軸は維持されたままだ。

 同時に、ロボットを動かす中核であるAIへの投資も強めている。同紙によると、イーロン・マスク氏が率いるAI開発会社「xAI」に対し、テスラは20億ドルを出資する方針を決めた。資金の使い道としては、ロボタクシーの制御や工場の自動運転化など、幅広い領域が想定されている。さらに同紙は、テキサス州オースティンなどで始めたロボタクシーの運行を、2026年上半期までに全米7都市へ広げる計画を報じている。マスク氏は、2026年末までに米国の4分の1から半分の地域で完全自動運転車の導入が進むとの見通しを示した。

 高級EVという分野は、世界の都市環境や道路条件を踏まえると、今後も拡大を続けられるかどうかは読みづらい。車体の大きい高級EVの需要は限られており、市場自体は残るとしても、伸びの乏しい領域にとどまる可能性が高い。一方、汎用的な車に高水準の自動運転が組み合わされば、収益の機会は広がる。トランプ政権下で進む自動運転車の事故報告義務の緩和や、州ごとに分かれた規則をまとめようとする動きは、この方向を後押ししている。

 EV市場で最終的に価値を生むのが完成車メーカーなのか、自動運転技術の提供側なのかは、今後の焦点になる。そのなかでテスラは後者の位置を着実に固めている。急速充電網の「スーパーチャージャー」に加え、家庭用蓄電池や太陽光発電も手がけ、分散したエネルギー資源をまとめて扱う事業者へと姿を変えつつある。今回の生産中止について、マスク氏は「名誉ある撤退」と表現している。高級車の利幅を追う段階を越え、エネルギーとデータから得られる利益を重視する局面へ移るという意思表示と受け取れる。

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