「EVが増えるほど税が消えていく……」 消失する約145兆円の代償――脱炭素の裏で低所得国が直面する“財政的自滅”へのカウントダウン
年145兆円の税収が揺らぐ世界

スイス・チューリッヒ工科大学の研究チームが2026年1月、「Nature Sustainability」に論文を発表した。そこで示されたのは、燃料税をめぐる世界規模の課題である。
2023年時点で、世界全体の燃料税収入は約9200億ドルに達している。日本円にして
「約145兆円」
だ。この規模の金が、EVの普及とともに失われていく可能性がある。化石燃料を前提に組み立ててきた国家の徴税システムが揺らぎ始めている。
研究では168か国を対象に、燃料税が政府の総税収に占める割合を分析している。比率は国の所得水準によって大きく異なる。日本では揮発油税が総税収に占める割合はおおむね1.5%前後だが、多くの国では4~8%、低所得国では9%を超える例も珍しくない。数字の開きは、各国の財政構造の違いをそのまま映している。
研究チームは「低所得国は、燃料税を引き下げた場合の歳入減少の影響を、裕福な国に比べて約3倍受けやすい」と指摘する。脱炭素化の流れは先進国が主導してきたものだ。だがその影響は、財政基盤の弱い国ほど重くのしかかる。影響を強く受ける国の多くは、すでに債務危機の渦中にあるか、新たな税制を整えるだけの力を持っていないという。
具体的にはイエメン、ベナン、レバノン、モザンビーク、マダガスカル、ケニア、スリナムといった国々の名が挙がっている。これらの国では燃料税収が政府収入の中で大きな比重を占め、債務負担も重い。将来見込まれる収入減を埋め合わせる制度的な対応力が乏しいのだ。
さらにナイジェリアやアンゴラ、ベトナムなど、化石燃料の主要な生産国でも事態は深刻になりうる。EVが増えれば、税収だけでなく石油・天然ガス投資からの収益も圧迫される。エネルギー転換が国の支払い能力を揺るがし、既存の債務の枠組みを支えきれなくする。研究が描き出すのは、こうした国家リスクが現実のものとして浮かび上がってくる局面だ。