「EV = お得」は終焉か? 28年重量税導入&再浮上の走行距離税――環境優遇から受益者負担への冷徹転換
英国の走行距離課税

EVやPHVに対する走行距離課税は、すでに米国の一部で導入され、オランダやベルギーでも検討が進んでいる。なかでも英国の動向は、将来の制度を考える上で重要な先行事例となる。英国政府は2025年11月26日に発表した予算案において、2028年4月からの追加課税を決定した。この予算規模は220億ポンド(約4.6兆円)に上る巨額なものだ。新たに導入される
「物品税(eVED)」
は、走行距離に応じて課される仕組みであり、ゼロエミッション車(ZEV)への移行にともなって減少する燃料税収を補填することを目的としている。税率はEVが1マイルあたり3ペンス(約4円/km)、PHVは1.5ペンス(約2円/km)に設定された。例えば、EVで年間8500マイル(約1万3600km)を走行した場合、納税額は255ポンド(約5万4000円)となる。これはガソリン車やディーゼル車の平均的な燃料税である480ポンド(約10万1000円)の半分程度に抑えられている。
税率は燃料税より低く設定されてはいるものの、これまでEVの最大の強みであった燃料費の安さという優位性は着実に削られることになる。これは車両の保有期間を通じた総コストの計算に影響を及ぼし、消費者の購買意欲を鈍らせる要因となりかねない。英国政府は2030年までに新車販売の80%、2035年までに100%をZEVとする目標を掲げているが、この増税が普及のブレーキとなる懸念を抱えている。
政府はこの影響を緩和するため、EV補助金制度に13億ポンド(約2743億円)を追加拠出し、適用期間も2030年3月まで1年延長した。しかし、こうした支援策の強化でも市場の冷え込みを完全には防げないとの見方が強い。独立財政評価機関である予算責任局の予測によれば、期間延長による販売下支え効果は約32万台にとどまり、今後5年間でEVの販売台数は累計で12万台ほど減少する見通しだ。
さらに、ロンドン市では2026年1月2日から、これまで免除されていたEVに対しても1日あたり13.5ポンド(約2800円)の渋滞税を新たに課している。ガソリン車などの税率も15ポンド(約3100円)から18ポンド(約3800円)へと引き上げられたが、EV利用者の負担増は避けられない。こうした動きは、政府が脱炭素の推進という旗印を掲げながらも、同時に財政の健全化を優先せざるを得ない厳しい現実を浮き彫りにしている。課税強化と振興策を同時に進めることの難しさが、英国の事例から鮮明に読み取れる。