EV幻想崩壊? 「77%がエンジン車回帰」――なぜEVは選ばれないのか? 自動車業界調査が示す経営・消費者の顕著なギャップとは
調査発表の概要

KPMGジャパン(東京都千代田区)が12月11日に発表した「第25回 KPMGグローバル自動車業界調査2025(日本版)および第4回 日本における消費者調査」は、興味深い断層を浮き彫りにしている。世界の自動車業界エグゼクティブ(経営者)775人と、日本国内の自動車保有者6007人(18~69歳)を対象にした調査結果を並べてみると、経営層が中長期で見据える戦略と、消費者が日々の生活のなかで下す判断との間に、埋めがたい溝が横たわっているのだ。
KPMGは今回の調査から、自動車産業が競争力を維持するための方向性として
・変革の先導(Spearhead Transformation)
・テクノロジーの習得(Master Technology)
・信頼の獲得(Earn Trust)
・緊張のなかでのかじ取り(Navigate Tensions)
・ともに成長(Thrive Together)
という五つを挙げた。一見すると理念的な響きだが、よく読むと、これは制度や市場環境が激変するなかで、従来のやり方では立ち行かなくなった現実への危機感の裏返しだとわかるだろう。
実際、地政学リスクの高まりを受けて、全体の74%にあたる自動車企業がサプライチェーン戦略を見直している。調達や生産の最適化は、もはやコストや効率の話ではなく、事業そのものが続けられるかどうかの問題になっている。また、AIや先端技術への投資については、86%の企業が前のめりな姿勢を見せた一方で、「十分に準備できている」と答えた企業はわずか20%。投資への意欲と、実際に使いこなす力との間には、かなりの開きがある。
一方、消費者側の意識はどうか。日本の消費者に次回購入時の検討対象を尋ねたところ、エンジン車が77%、ハイブリッド車(HV)が30%となり、前回調査と比べて
「エンジン車への回帰」
が鮮明になった。
・プラグインハイブリッド車(PHV)
・バッテリー式電気自動車(BEV)
の購入検討意向は大きく落ち込んでいる。さらに、日本の消費者の約1割は、ロボタクシーが普及すれば自家用車を手放してもいいと考えている。加えて、保有する車のブランドが属する地域によって、購入時に重視されるポイントが異なることも明らかになった。
この結果が示しているのは、
・経営側が前提としている技術進化のスピード
・消費者が受け入れられると感じる変化の幅
が、まったく噛み合っていないということだ。自動車産業は今、技術や制度を更新するだけでは足りず、価値をどう伝えるか、信頼をどう築くかという根本から問い直さざるを得ない局面に立たされている。