駅前の店がすべて消えた「京成立石」──“失敗が許されない再開発”で揺らぐ下町文化と、コスト増・訴訟が示す構造的リスク

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京成立石駅北口の再開発は、710戸のタワーマンションや葛飾区役所移転、バスロータリー整備を含む大規模事業だ。建設費は2024年時点で約1186億円に膨張し、住民の反発やテナント運営の複雑化も指摘される中、下町の賑わいをどう維持するかが問われる。

増え続ける再開発コスト

京成立石駅周辺の様子(画像:宮田直太郎)
京成立石駅周辺の様子(画像:宮田直太郎)

 筆者の取材で見えたこと以外にも、立石の再開発には多くの問題がある。特に課題となるのは組合再開発である。この方式は土地収用の費用がかからない利点がある一方、権利関係が複雑で、各フロアの運営やテナント誘致の方針で権利者同士の意見が食い違い、施設運営に支障が出やすい。

 立石の場合、北口と南口で異なる組合が作られ、南口ではさらに東西に分かれる。各組合が連携しなければ、建物の動線が複雑になり、迷ってしまう可能性もある。防災上も好ましくないだろう。

 再開発のコストは増え続けている。

・建設資材や人件費の高騰
・アスベスト除去

などの影響で、2022年12月時点で約933億円だった費用は、2024年4月には約1186億円に膨らみ、約253億円、率にして約27%増加した。前述の住民による集団訴訟は、高くなった賃料が原因で

「民間事業者が入居せず、行政機関が埋め合わせとして入居するのではないか」

という懸念から生まれた。

 高騰した建設費を補うため、賃料は今後も高くなると想定される。その結果、商業施設には従来の立石の店舗ではなく、上層階のタワーマンションに合わせた高単価・高級志向の店が中心になる可能性が高い。そうなると、これまで立石の魅力であった「安くて美味しい飲食店」を目当てに訪れていた人々が足を運ばなくなる懸念もある。

 高級志向の店舗は、立石駅から京成押上線でわずか7分の押上駅周辺、「東京スカイツリータウン」に多く存在する。立石の再開発ビルに同様の高級スーパーなどが入るとは想定しにくい。さらに悪化すると、採算確保を優先した医院や美容院、不動産仲介ばかりで、

「住民が日常的に利用できる店舗がほとんどない」

可能性もある。これでは、住民が利用したいと思えるビルにはならないだろう。

 下町の賑わっていた商店街を再開発した結果、高い賃料や住民とのミスマッチのあるテナント構成に直面し、賑わいが戻らないまま空きテナントだらけのモールができる恐れがある。複雑な権利関係で動線が複雑になれば、再開発の意味も薄れてしまう。北区十条の「ジェイドモール」やさいたま市大宮区の「大宮門街」で見られた問題が、立石でも繰り返される可能性がある。こうした最悪の事態を防ぐためには、行政と組合の双方が慎重に検討する必要がある。

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