なぜトンネルは「水」に負けるのか? 工事はなぜ止まる? 新東名・中部縦貫・日本海東北道で露呈する地盤リスク
工事が停滞しているトンネル事例

水問題によって工事が停滞しているトンネル事例を具体的に示していこう。
●新東名・高松トンネル
新東名は新秦野IC~新御殿場ICの区間が最後に残っているが、この区間は路線全体で最も難易度が高い。東名高速道路でも最大の山岳地帯にあたる地域で、工事の停滞が続いている。
なかでも高松トンネルの工事は難航している。総延長約2900mのうち、残り700mまで掘り進んだ段階で湧水問題が発生し、作業が止まった。高松トンネルは神奈川県の丹沢地域と静岡県の伊豆地域の境界に位置し、断層破砕帯が広がる複雑な地質を抱える。軟弱地盤が多く、湧水が頻発する構造だ。月50mのペースで進んでいた掘削も、2025年11月時点では工程の見直しでほぼ停止している。
新東名は当初、2020年度の全線開通を見込んでいたが、その後2027年度へ延期され、今回さらに1年以上先送りされる見通しとなった。
未開通区間に対応する東名の該当区間は、東名でも屈指の渋滞ポイントである。渋滞による時間損失も大きい。新東名が開通すれば東名の渋滞緩和につながり、その効果を含めた経済波及効果は約1.2兆円と試算されている。経済的意義は小さくない。
●中部縦貫道・大谷トンネル(九頭竜~油坂区間)
長野県松本市から岐阜県高山市を経て福井市へ至る中部縦貫自動車道は、総延長約160kmの大半が北アルプスの山岳地帯にあたる。そのためトンネル区間が必然的に多く、工事も難度が高い。
このうち、岐阜県側の東海北陸自動車道と福井県側の北陸自動車道をつなぐ区間は、当初2026年春の開業を予定していた。しかし、2025年10月に福井県で開かれた「第12回中部縦貫道事業費等監理会議」で、工事の難航により開通時期が白紙に戻された。
今回延期となったのは、大野油坂道路の九頭竜・油坂区間の15.5kmである。中心となる大谷トンネル(全長2853m)は、想定を超える湧水問題に直面し、貫通が計画より5か月遅れた。2025年10月下旬に覆工コンクリートが完了し、今後は設備と舗装の工事へ移る予定だ。
そのほかにも、新子馬巣谷橋や新下半原トンネルでは地盤沈下や蛇紋岩の存在が判明し、慎重な対策工事が続く。さらに2025年には並走する国道158号で大規模な斜面崩壊が発生し、3月から7月まで長期通行止めとなった。これが大野油坂道路の施工計画に影響し、遅延を深めた。
工事の難航はコストにも跳ね返る。2023年時点で全体の事業費は約1509億円だったが、今回の見直しで約1959億円へと3割増えた。増額分450億円のうち、約343億円(76%)は新子馬巣谷橋の対策に充てられており、物価高や人件費上昇も負担を押し上げている。
●日本海東北道・朝日温海道路2号トンネル
日本海東北自動車道は、新潟県から山形県・秋田県へ日本海側を北上する路線で、全線開通に向けて工事が続いている。このうち、朝日まほろばICからあつみ温泉までの区間は朝日温海道路として建設が進む。未開通区間は約40.8kmで、21本のトンネルが並ぶ。すでに貫通したトンネルもあるが、掘進中、あるいは着工前のトンネルも多い。各地点で想定より軟弱な地質が確認され、計画や工法の見直しが続いている。
なかでも最長となる2号トンネル(仮称、全長2587m)は、断層破砕帯が見つかったことで工事が難航している。掘削面で湧水や崩落が発生した経緯もあり、作業は慎重に進めざるを得ない。2025年9月時点で全体の約46%にあたる1198mまで掘り進んだが、残り区間の見通しは立っていない。
朝日温海道路の新潟県側は、総延長の約半分をトンネルや橋梁といった構造物が占める。通常の高速道路より工費が高くつくうえ、掘削残土に含まれる鉛などの重金属処理も課題だ。残土に重金属が含まれる場合、処理費は1立方メートルあたり3000~5000円に上る。
事業費も膨張している。当初は約1900億円を見込んでいたが、2022年時点で約2380億円へ増えた。難工事が続く限り、さらに増加する可能性が高い。