なぜトンネルは「水」に負けるのか? 工事はなぜ止まる? 新東名・中部縦貫・日本海東北道で露呈する地盤リスク

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新東名高松トンネルや中部縦貫道大谷トンネル、朝日温海道路2号トンネルなど、長大トンネルの工事は湧水や軟弱地盤で停滞。開通延期や事業費増は総額約4100億円に達し、高速道路事業全体の効率と経済波及に影響している。

地質調査と現場の乖離

建設中の新東名(画像:写真AC)
建設中の新東名(画像:写真AC)

 トンネル建設では、湧水や地下水によって工事が難航するケースが多い。その背景には複数の要因がある。

 まず、事前の地質調査と現場の実態が必ずしも一致しない点が挙げられる。トンネル建設では、事前にボーリングなどの地質調査を行い、安全性や工事のスムーズさを確認した上で着工する。しかし、現状の技術では、破砕帯や断層部の水量や水質まで事前に正確に把握することは困難である。

 その結果、想定外の湧水や地下水が発生し、排水作業や補強作業、場合によっては薬剤処理などの大規模な工程が必要になる。このため、工事期間や建設費が当初計画より増加することが少なくない。

 さらに、日本は島国で水資源に恵まれる一方、急峻な山岳地帯も多く、多層の地層が複雑に入り組んでいる。特に堆積岩や蛇紋岩など透水性の高い地層が含まれる地域では、湧水や地下水が分布しやすく、工事の難易度をさらに高めている。

 日本の建設工事では、安全を最優先に進めることが共通の認識である。特にトンネル工事は、過去に多くの事故や犠牲者が出ている危険作業である。湧水や崩壊のリスクが少しでも確認されると、施工管理者は工事を一時停止し、作業工程の見直しに入る。

 トンネルの1日の掘進距離は、東京外環自動車道の大泉側本線シールドトンネルで約5mとされるが、現場により1mから1.5mと差がある。水問題が発生すると、掘進速度は半分以下に低下したり、場合によっては完全に停滞したりする。貫通まで残り50mであっても、完成時期の見通しは立たなくなる。

 掘進速度の低下は、単に完成時期を延ばすだけでなく、人員や機械、資材の手配にも影響する。結果として建設費も日に日に膨らむ構造となる。

 トンネルで湧水や地下水が発生すると、想定外のコストが生じる。具体的には、工法の変更や排水処理、覆工厚の増加などが必要になる。

 湧水や地下水を処理する場合、排水設備を設置するのが一般的である。例えば、60立方メートル/時の排水能力を持つ設備を1か所設置すると概算で約70万円、1日あたりの使用料は約20万円かかる。排水作業に日数がかかるほど、費用は増える構造である。

 さらに、近年の物価高や人員不足もコスト増を加速させている。2025年8月に国土交通省の有識者検討会が示したデータによれば、過去10年の高速道路開通区間の約7割で、当初予定より開通が遅れ、事業費が約4100億円増加した。

 具体例として、2021年8月に全線開通した中部横断自動車道南側区間では、静岡県の新清水JCTから山梨県の六郷ICまでの建設費が、約30か所のトンネル工事の難航などにより、当初計画より約600億円増加した。

 この結果、高速道路事業全体の予算は、新規開通区間の建設費に圧迫され、既存路線のリニューアル工事や施設更新の費用を確保しにくい状況となっている。

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