「550万人雇用」を救う“非BEV”の勝算――トヨタが仕掛ける「水素エンジン」という内燃機関戦略

キーワード :
, ,
電動化が進む自動車産業で、トヨタは水素エンジンに挑む。国内550万人の雇用や既存技術を生かしつつ、モータースポーツで実証を重ね、名車AE86や商用車への応用も進める多様な脱炭素戦略が未来を拓く。

レースで磨く新技術

 トヨタは水素エンジンを研究室ではなく、実戦の場で育てている。量産を見据え、耐久性と信頼性を確保しつつ、短期間で技術を進化させる舞台として選んだのがモータースポーツだ。

 2021年、トヨタは市販車「カローラスポーツ」に水素エンジンを搭載したレーシングカーで、国内耐久レース「スーパー耐久シリーズ(S耐)」に初参戦した。2025年現在も参戦を継続している。技術は年々進化し、トヨタがレースを「走る実験室」として活用している好例といえる。

 参戦当初、水素補給は他チームから遠く離れた特設ステーションで、厳重な安全管理のもと行われていた。しかしわずか数年で、給油と同じくピットレーンでの「給水素」が可能になった。最初は気体の水素を充填していたが、途中から世界初の液体水素への切り替えに成功し、補給時間は当初の6分から1分程度に短縮された。航続距離も伸び、1回の補給で200kmの全開走行が可能となった。水素ポンプも当初はレース中に2回交換が必要だったが、現在は無交換で24時間走り切れるよう進化している。

 S耐という現場で得られる知見は膨大だ。水素の燃焼制御、供給系の耐久性、充填インフラ整備のノウハウなど、実戦を通じてトヨタは日々改良を重ねている。市販車への応用可能性は、さらに現実味を帯びてきた。

WECで磨く耐久力

GR LH2 Racing concept(画像:トヨタ自動車)
GR LH2 Racing concept(画像:トヨタ自動車)

 トヨタはさらに、世界最高峰の耐久レース「WEC」への水素技術展開を視野に入れている。2028年以降、WECでは水素を燃料とするレーシングカーの参戦が可能になる見通しで、トヨタは水素内燃機関と燃料電池の双方の可能性を見据えて開発を進めている。

 世界の舞台で競争することは、単に技術力を示すだけではない。極限条件での耐久性や安全性を検証し、その成果を量産車へフィードバックする絶好の機会でもある。

 WECのほか、世界トップクラスのラリー競技であるWRC(世界ラリー選手権)向けの水素エンジンコンセプト車も発表している。トヨタは「モータースポーツは技術開発の実験場」という理念のもと、水素技術の実用化に向け挑戦を続けている。

水素で甦る名車

水素エンジン搭載のAE86型スプリンター・トレノ(画像:東京オートサロン)
水素エンジン搭載のAE86型スプリンター・トレノ(画像:東京オートサロン)

 水素エンジンの可能性は新車開発にとどまらない。2023年の東京オートサロンでは、トヨタが1980年代の名車「AE86 スプリンタートレノ」を水素エンジン仕様に改造して出展し、大きな話題を呼んだ。

 これは単なるショーモデルではない。過去の名車にもカーボンニュートラルの未来を与えられることを示す象徴的なプロジェクトである。長年愛されてきた車両をゼロエミッション化しながら、走りの楽しさを維持する。水素エンジンは、こうした未来の可能性を切り拓きつつある。

全てのコメントを見る