「550万人雇用」を救う“非BEV”の勝算――トヨタが仕掛ける「水素エンジン」という内燃機関戦略

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電動化が進む自動車産業で、トヨタは水素エンジンに挑む。国内550万人の雇用や既存技術を生かしつつ、モータースポーツで実証を重ね、名車AE86や商用車への応用も進める多様な脱炭素戦略が未来を拓く。

内燃技術の再活用

水素エンジン(画像:トヨタ自動車)
水素エンジン(画像:トヨタ自動車)

 水素エンジンの最大の魅力は、現在の自動車産業が積み上げてきた膨大な資産を活かせる点にある。エンジンの仕組み自体は、燃料をガソリンから水素に置き換えるだけで基本構造は変わらない。そのため、既存の内燃機関技術や製造設備、人材、サプライチェーンを大きく変えずに、カーボンニュートラル時代への移行が可能である。

 日本国内だけでも自動車産業は約550万人の雇用を支えており、その中核には内燃機関に関わる人材や企業群が存在する。一気にBEVに舵を切れば、これらの経験やノウハウ、設備は不要となり、産業構造そのものが大きく揺らぐ恐れがある。

 さらに、水素エンジンには感性面での大きな魅力がある。内燃機関ならではの回転フィールやサウンド、操る喜びをそのまま残せるのだ。環境負荷を抑えつつ、ドライバーが五感で楽しめる走りを維持できる。トヨタが「カーボンニュートラルと走る楽しさは両立できる」と強調する背景には、この「新しい内燃機関」への期待がある。

 また、FCVやBEVは大容量バッテリーや燃料電池スタックの製造にリチウム、ニッケル、プラチナなどの希少金属を必要とする。これら資源は供給制約や価格変動の影響を受けやすく、資源獲得競争が激化すればコスト上昇や紛争リスクも避けられない。

 水素エンジンは希少金属への依存度が極めて低い。エンジンの基本構造はガソリン車とほぼ同じで、生産コストを抑えやすく、既存の製造ラインを活用できる。これは自動車メーカーだけでなく、部品サプライヤーや地域経済にとっても大きな利点となる。

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