なぜ「GT-R」は消滅したのか? 開発困難を超えた日本スポーツカー市場の「構造的病理」

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日産「GT-R」が56年の歴史に幕を下ろした。開発費高騰や販売低迷、SUV・EVへの資源集中により量産効果が得られず、スポーツカー市場は国内で2%未満に縮小。次世代技術を活かした復活の可否が、ブランド力と産業競争力を左右する。

GT-R維持の新戦略

NSX Type S。2022年10月終了モデル(画像:本田技研工業)
NSX Type S。2022年10月終了モデル(画像:本田技研工業)

 今回のGT-Rのようなスポーツカーが失われる原因は、規制だけではない。

・企業の投資余力不足
・ブランド戦略の不在
・消費者ニーズの変化

が同時に作用した複合的な結果である。これはGT-Rだけでなく、日本メーカー全体が直面する課題でもある。

 EVなど低公害車市場での国際的な出遅れも影響している。消費者の経済状況が好転せず、車自体を購入しない人も増えている。サブスクリプションやレンタカーなど、車を保有しなくても済むビジネスモデルの波及も背景にある。環境に配慮したSUVやミニバンの方が実用的であるという流れもある。

 しかし、開発や経営の合理化が進みすぎた結果、スポーツカーのような趣味性の高い車が失われることは、多様性の観点から残念だという声も根強い。車種の多様性はマーケットの維持と拡大につながるとの意見もある。スポーツカーを残す方策も検討されるべきである。

 では、スポーツカー市場を維持するにはどうすればよいか。ひとつは高付加価値路線である。熱心な自動車ファン向けに、少量限定生産の高付加価値車を販売する戦略で、ブランドの維持にもつながる。

 ふたつめはEVスポーツカー化である。賛否両論はあるが、2004年当時、慶應義塾大学の電気自動車研究室はEliicaを開発した。最高時速370km、一充電航続距離300kmのハイパワーEVである。排ガス規制を回避しつつ、スポーツカーとしての加速性能と走りを両立させ、新たな市場を狙った。低公害化への思いとスポーツカーの楽しみを両立させる戦略は、新しい市場化の一手となる。

 三つめは開発における外部連携である。自動車メーカー同士やサプライヤーとの共同開発でコストを分担する方法がある。さらに、デジタル領域でのブランド展開も考えられる。eスポーツや高性能シミュレーションを取り込み、スポーツカーの楽しさを拡張する方法だ。ブランド力向上にもつながる。

 国内市場の縮小を受け、グローバル市場での需要を取り込む戦略も必要だ。外国メーカーとの協働もひとつの選択肢である。多面的な戦略を組み合わせ、スポーツカー市場の維持と拡大を図ることが求められる。

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