なぜ「GT-R」は消滅したのか? 開発困難を超えた日本スポーツカー市場の「構造的病理」

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日産「GT-R」が56年の歴史に幕を下ろした。開発費高騰や販売低迷、SUV・EVへの資源集中により量産効果が得られず、スポーツカー市場は国内で2%未満に縮小。次世代技術を活かした復活の可否が、ブランド力と産業競争力を左右する。

規制強化と採算悪化

日産自動車のロゴマーク。2022年1月14日撮影(画像:時事)
日産自動車のロゴマーク。2022年1月14日撮影(画像:時事)

 自動車規制の強化はまず環境面で顕著である。日本のみならず、欧州の「EURO 7」規制や北米の排ガス基準強化など、世界的に規制は厳しくなっている。

 そこに安全面の規制も加わる。日本では自動ブレーキ義務化やサイバーセキュリティ規制などが導入された。騒音や排出、そして安全に関わる規制が厳格化するにつれ、新しい設計や部品が必要となる。人件費を含め開発や製造のコストは膨らみ、当然販売価格に転嫁される。

 GT-Rの価格は2007年時点で最も安いグレードでも税込777万円だった。しかし現在では最安グレードでも1444万円となり、当時の1.8倍以上に上昇している。開発費の増大が悪化した経済環境の下で消費者の購入可能価格を超え、販売台数が縮小し、投資回収が困難になる。こうした悪循環が生じた。

 さらに、日産の経営状況の悪化も背景にある。日産は経営再建中である。2024年度の決算では、売上高は前期比横ばいの12兆6332億円だったが、純損益は6708億円の赤字となった。

 2025年4月~6月期の売上高は前年同期比9.7%減の2兆7069億円で、営業損益は791億円の赤字、最終損益は1158億円の赤字となった。2025年4月~9月期では、営業損益が約1800億円の赤字に達するとの報道もある。米国での追加関税も懸念材料である。

 こうした状況では、研究開発のリソースを集中せざるを得ない。日産はスポーツタイプ多目的車(SUV)と電気自動車(EV)に資源を集中する方針をとった。GT-Rはブランドの象徴であるが、量産効果がなく採算を確保できないため継続は困難と判断された。EV関連の研究開発や車種展開を考えると、低公害車両に資源を振り向けるのはやむを得ない選択である。

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