見えない「海の侵略者」の正体――年間50億トンの「海水」が運ぶ生態系崩壊とは

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世界の海を巡る貨物船の「バラスト水」が年間30~50億tも移動し、数千万から数億の外来生物を運搬している。この見えない侵略者は生態系を脅かし、水産業や海運業、さらには人の健康にも影響を及ぼす。

ムラサキイガイの被害拡大

バラスト水の処理基準(画像:国土交通省)
バラスト水の処理基準(画像:国土交通省)

 バラスト水により運ばれた外来種が新たな環境に定着すると、在来の生態系に予想外の変化をもたらす。日本近海も例外ではなく、各地で深刻な問題が起きている。代表的な例が

「ムラサキイガイ」

だ。欧州ではムール貝と呼ばれ、もとは地中海沿岸を中心に分布していた。だが船舶のバラスト水に混入し、世界中に分布を広げている。

 ムラサキイガイは養殖のカキに付着して被害を与えるだけでなく、漁網やブイを汚損する。導水路や配管に付着すると、水の流れを妨げ詰まりの原因にもなる。これらは日常生活にも影響を及ぼしている。

 外来種の侵入は単に在来種を圧迫するだけではない。食物連鎖の構造を変え、生態系全体のバランスを崩すことがある。例えば、植物プランクトンを大量に捕食する外来種が入ると、それを餌にする在来魚の餌が不足し、漁業に悪影響が出る可能性がある。

 また、バラスト水を介した病原体の拡散も問題だ。

・病原性コレラ菌
・大腸菌
・腸球菌

などの菌がバラスト水とともに移動し、人間の健康や水産業に直接の脅威となる。

 こうした外来種問題の深刻さを受け、IMOは2004年に「バラスト水及び沈殿物の管制及び管理のための国際条約」(バラスト水管理条約)を採択した。条約は2016年に締結国の合計商船船腹量が35%を超え、2017年9月8日に発効した。

 条約の核心は、船舶にバラスト水処理装置の設置を義務付けることだ。新造船だけでなく既存船も段階的に処理装置の設置が求められている。2024年までにすべての対象船舶で設置を完了する予定だ。

 バラスト水処理装置を搭載する際はサンプリング分析を実施し、船上でできる簡易分析手法でバラスト水を検査する必要がある。

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