率直に問う 「旧車」の魅力とは何か? 不便さを超えた所有価値を考える

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旧車ファンの“至福の瞬間”を探るカレント自動車の調査では、56人のオーナーが旧車の魅力を多角的に語った。洗車やドライブ、故障修復の喜びが所有体験の中核であることが浮き彫りになった一方、日常的な不具合や制度の硬直性が旧車文化の存続に課題を投げかけている。経済的・制度的な支援策の必要性が急務であり、旧車を単なる趣味にとどめず、文化・技術・産業の社会資産として再評価する視点が求められている。

旧車再評価の制度構築

自動車(画像:写真AC)
自動車(画像:写真AC)

 旧車を取り巻く課題に対し、どのような制度設計が可能なのか。ここでは三つの方向性を提示する。

 第一は、クラシックカー登録制度の創設である。欧州では、一定年式を超えた車両を遺産として扱い、排ガス規制の緩和や自動車税の軽減を行っている。英国の「Historic Vehicle Tax Exemption」やドイツの「Hナンバー制度」が代表例だ。これらは文化的・技術的価値のある車両を保存しながら、街中での走行も可能にしている。

 一方、日本では13年以上経過した車両に対する増税が続いている。年式のみを基準とする制度設計のもと、車両の整備状況やメンテナンス履歴は考慮されていない。環境負荷に即した課税とは言い難い。丁寧に維持された旧車と、放置された車両を同一視する現在の制度には、明確な盲点がある。「老朽化 = 悪」と見なす一律設計から脱却し、

「保存 = 価値」

という視点への転換が必要だ。手間とコストをかけて維持された車両には、それに見合った社会的インセンティブを付与すべきである。

 第二は、旧車整備士に対する認証制度の導入と技術継承支援である。戦後の高度成長期に製造された旧車は、電子制御以前のアナログ構造を持つ。キャブレター調整や機械式点火など、特殊な技能が求められる。

 しかし、これらの技術に習熟した整備士は減少の一途をたどる。高齢化も進んでおり、一部のディーラーでは旧車修理の受付を断る事例も常態化している。現行の整備士資格では、こうした技能が正当に評価されにくい。今後は「旧車整備士」あるいは「ヘリテージ・テクニシャン」といった専門資格の創設が不可欠だ。さらに、部品の再製造やレストア技術に従事する人材に対し、育成支援や事業助成を通じた後押しも求められる。

 この分野の技術が途絶えれば、旧車文化は衰退するだけでなく、将来的なモビリティ資産の多様性も失われかねない。

 第三は、保険制度の再構築である。現在の保険は、旧車に対する補償を年式ベースの時価評価に依存している。これでは、市場価値との乖離が大きい。実際、マーケットで300万円以上の価値がある車両でも、事故時の査定額が数十万円にとどまるケースが後を絶たない。保険本来のリスクヘッジとしての機能を果たしていない。

 今後は、レストア履歴や整備記録を反映するプレミアム査定の導入が不可欠だ。欧米ではすでに「事前合意価格型(Agreed Value)」のスキームを採用するヒストリックカー専門保険が存在する。オーナーとの事前協議を通じて、補償額を明確化する方式だ。日本でも同様の評価スキームを導入すれば、旧車市場の健全な発展を後押しできる。

 以上の三点はいずれも、旧車を文化・技術・産業を横断する「社会資産」として再定義するための制度的基盤である。旧車に手をかけるという営みを、単なる趣味として片付けるのではなく、社会的価値として評価する枠組みを整えること。それこそが、持続可能なモビリティ文化の第一歩となる。

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