日産「マザー工場」閉鎖の衝撃――なぜ追浜は年間稼働率4割で止まったのか? グループ2万人の人員削減で露呈する国内生産の限界

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日産が追浜工場の2027年度末閉鎖を正式発表した。年産24万台に対し稼働率は40%に低迷。6700億円超の赤字と約2万人の人員削減の中、国内生産拠点の集約と再編が加速する。大都市圏から地方への生産移管は、労働力流動性の限界や地域経済への影響を伴う。制度設計の不備や都市計画との調整課題も浮上し、旧来の地産地消モデルからの転換が不可避だ。研究開発拠点の強化と産学連携による新たな産業クラスター形成が鍵となる。国・自治体・民間による協働で、空洞化回避と地域再生の道筋を描く必要がある。

国内車産業の地産地消モデル崩壊

日産・イヴァンエスピノーサ社長(画像:日産自動車)
日産・イヴァンエスピノーサ社長(画像:日産自動車)

 エスピノーサ社長は追浜工場跡地の活用について、

「追浜工場の将来図は、いろいろなシナリオを検討していて、第三者が資産を買いたいのであれば検討の余地がある。ほかの事業をやるということも考えられるかもしれないが、現時点ではそういった計画は何も決まっていない。2027年度に車両生産を終了し、資産の使い方を変えていくことを考えるということだ」(『NHK』2025年7月15日付け)

と述べている。現時点でホンハイなどとの共同利用案は進展していないが、土地や施設の民間流通を示唆する発言である。

 しかし、ここには制度設計の不在が露呈している。敷地は大規模で鉄道や高速道路に隣接する好立地だが、周辺の都市インフラは生産型産業を前提に設計されている。そのため、サービス業や物流業への用途転換には規制や用途制限の見直しが必要となる。

 また、都市再開発の観点からは、既存の用途地域が

・コンパクトシティ政策
・居住誘導区域

の枠組みと衝突する恐れもある。行政が雇用維持を求める一方で、土地利用転換に向けた柔軟な制度調整を同時に進められるかが、空洞化を回避する鍵となる。

 追浜・湘南の閉鎖に象徴されるように、国内完成車産業はもはや旧来の「地産地消」モデルを支える構造にはない。

・世界市場の再編
・環境対応車への移行
・東南アジアへの製造シフト

という三つの要因が変化を促している。

 一方で、研究開発や試験、安全認証といった非製造領域には地政学的価値と拠点性が残っている。こうした領域への特化と、大学や研究機関との連携によるクラスター形成が、土地と人材の再活用のひとつの方向性となりうる。

 制度面でも、都市計画、労働政策、企業誘致を連結する再編設計が求められる。もはや

「工場の閉鎖 = 地域の死」

ではなく、再定義の契機となるよう、国・自治体・民間が協働して再設計にあたる必要がある。

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