日産「マザー工場」閉鎖の衝撃――なぜ追浜は年間稼働率4割で止まったのか? グループ2万人の人員削減で露呈する国内生産の限界

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日産が追浜工場の2027年度末閉鎖を正式発表した。年産24万台に対し稼働率は40%に低迷。6700億円超の赤字と約2万人の人員削減の中、国内生産拠点の集約と再編が加速する。大都市圏から地方への生産移管は、労働力流動性の限界や地域経済への影響を伴う。制度設計の不備や都市計画との調整課題も浮上し、旧来の地産地消モデルからの転換が不可避だ。研究開発拠点の強化と産学連携による新たな産業クラスター形成が鍵となる。国・自治体・民間による協働で、空洞化回避と地域再生の道筋を描く必要がある。

6700億円超赤字が招く人員削減

日産・追浜工場所在地(画像:OpenStreetMap)
日産・追浜工場所在地(画像:OpenStreetMap)

 追浜工場は1961(昭和36)年の操業以来、日産の中核拠点として機能してきた。2010(平成22)年以降は電気自動車「リーフ」や「ノート」など、主にコンパクトカーを生産していた。だが近年は生産量が減少し、年産能力24万台に対し稼働率は4割の水準にとどまっていた(2024年)。

 ただし、稼働率の低下はあくまで結果であり、根本的な原因ではない。問題の本質は、

・車種戦略の迷走
・地域間コスト格差
・グローバル市場の販売構造の変化

にある。特に国内工場で生産された車両の輸出競争力が著しく低下した点は深刻だ。円安にもかかわらず、エネルギー・物流・人件費を含む総合コストはアジアの主要拠点を大きく上回っている。かつて追浜工場は「マザー工場」としての役割を果たしていたが、現在では企業側にそれを維持するインセンティブがない。

 日産は2024年度決算で6700億円超の赤字を計上し、グループ全体で約2万人の人員削減を発表した。追浜・湘南工場の閉鎖も、グローバルにおける生産体制再編の一環と位置付けられている。

 しかし今回の決定は、長期的な最適化戦略というより、目先の財務リスク回避とコスト削減に重きを置いた施策といえる。追浜では約2400人が働くが、組立ライン従事者の配置転換や雇用維持の具体策は示されておらず、従業員や自治体にとって猶予のある撤退とはいい難い。

 湘南工場についても

「車両の生産委託の可能性を模索しつつ、特装車・サービス部品の生産をはじめとするサポート事業を担うことも視野に入れ、従業員の雇用を最優先にあらゆる可能性を検討していく」

としているが(『NHK』2025年7月15日付け)、需要規模は限られており、大多数の生産職を吸収するのは困難とみられる。今回の決定は、構造的な雇用の空白を地域にもたらす可能性が高い。

 追浜での生産終了後は、福岡県の「日産自動車九州」工場へ集約される。地方への生産移管によって、地価や水道光熱費、物流費、労務コストを抑える狙いがある。

 だが、

・労働人口の地域差
・都市インフラの違い
・家族帯同の制約

などを考慮すれば、単純な転勤や異動では人員の移動は成立しにくい。日産が「これ以上、国内工場を減らさない」と表明する背景には、移動可能な人材の余力が尽きたという現実がある。

 神奈川という大都市圏から製造拠点が消える影響は大きい。地域の中小製造業、下請け企業、サービス事業者は雇用機会の喪失に直面し、事業継続の判断を迫られる。今回の撤退は一企業の経営判断にとどまらず、日本の産業空間の再構築につながる問題である。

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