「タワマン新住民」と旧住民は共存できるのか? 「快適さ」が街の歴史を破壊する根本理由 識者が警鐘を鳴らす“クソ社会化”のリアルとは

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SNSで話題となった「うなぎ店クレーム騒動」は、東京の再開発地域で進む“新住民化”の象徴だ。生活文化と快適性が衝突する都市の摩擦は、今や全国で可視化されつつある。求められるのは、制度としての「共生の設計図」――全国に8,000棟を超える高層集合住宅時代の新たな課題だ。

契約書への地域情報開示義務

古い商店街のイメージ(画像:写真AC)
古い商店街のイメージ(画像:写真AC)

 では、結局のところ、タワーマンションの新住民と旧住民は、どうすればうまくつきあえるのか。

 まず必要なのは、生活の場が重なる仕組みをつくることだ。タワーマンションでは、部屋のなかだけで生活が完結しやすい。そのため、地域社会との接点がなくなり、ほかの人との関わりが「トラブル」としてしか現れなくなる。こうした断絶を防ぐには、地域とのつながりをつくり直す必要がある。

 例えば、商店街や個人店とマンションの管理組合が連携し、地域限定の優待券を出す。地域イベントへの招待制度を導入する。そうした工夫によって、経済活動を通じた日常の接点が生まれる。町内会と管理組合の情報交換や、災害時の協力体制づくり、地域の清掃や防犯活動への参加も効果がある。行政が調整役となり、これらの活動を義務ではなく「資源」として位置づける制度も必要だ。

 さらに、制度として整備すべきもののひとつが、

「不動産契約書に地域情報を記すことの義務化」

である。いまの物件案内や重要事項説明書には、近くの施設や駅までの時間などは書かれているが、生活文化についての情報は書かれていないことが多い。例えば、老舗の飲食店の煙や、商店街の営業時間、神輿の巡行、地域に特有の生活音などである。これらは、新しく住む人の体験に大きく影響する。あとから起こるトラブルを防ぐためにも、契約の前に正しく伝えることが必要だ。

 地方自治体にも責任がある。とくに100戸以上や、ある一定の広さをこえる大きなマンションには、「地域への貢献」を義務とする条例が求められる。例えば、

・町内会と定期的に話し合う場をつくること
・防災訓練への参加
・建物の一部を地域の集まりに使わせること

などを、条例に盛りこむべきである。これにより、地域とのつながりを努力目標ではなく「制度上の決まり」としていける。

 開発を行う会社に対しても、「地域との接続計画書」の提出を義務づけるべきだ。この書類には、騒音やにおいの影響だけでなく、近くの店との共存の考え方、地域行事への対応、住民が地域と関わる機会などを記す必要がある。これにより、タワーマンションは、まわりから切り離された“要塞”ではなく、地域の一部として受け入れられる存在に変わっていく。

 また、もしもトラブルが起きたときには、地域の外にいる第三者が調整役をつとめる制度も考えるべきだ。感情的な対立を避けるには、信頼できる人が間に入って、互いのいい分を見える形にし、落としどころを見つけることが重要である。この考え方は、欧州や北米の都市で広まっているコミュニティ・オフィサーとも共通している。

 都市の魅力は、多様性にある。ちがう価値観がぶつかる場で、何を変えて、何を残すか。それは都市の成熟度をはかるものさしでもある。都市は人を選ばない。その原則を守るには、共に生きるための制度づくりと、つながりの場をつくることが、今もっとも重要な投資となる。摩擦は、都市が成長するための材料である。火種を消すのではなく、ていねいに育てて、光に変える努力が求められている。

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