「タワマン新住民」と旧住民は共存できるのか? 「快適さ」が街の歴史を破壊する根本理由 識者が警鐘を鳴らす“クソ社会化”のリアルとは
人口流動が生む文化摩擦の構図

この事例から見えてくるのは、元東京都立大学教授で社会学者の宮台真司氏が、長年警告してきた「新住民化問題」と呼ばれる構造的な課題である。
新住民化問題とは、その土地に長く住んでいない人々が多数を占めるようになることで、地域に根づいてきた風習や慣習、暗黙の了解が軽視されるようになる現象を指す。これらは、快適さや効率性といった現代的な価値観によって、次第に排除されていく。
うなぎ店をめぐる騒動も、単なるひとつの苦情ではなく、都市において異なる価値観が衝突することを象徴している。宮台氏は、2020年10月22日のX(旧ツイッター)で次のように述べている。
「それがこの25年間、各所で語ってきた「新住民化問題」です(土地にゆかりのない者たちのマジョリティ化による「合理的な非合理」の徹底排除(危険遊具排除・組事務所撤廃・店舗風俗一掃・モンスターペアレンツ・子供の抱え込み・夕方以降の外遊び禁止・よそんちでの晩ご飯禁止など)。クソ社会化です」
都市では、人の入れ替わりがいつも起きている。戦後にできた団地やニュータウンでは、同じ時期に引っ越してきた人たちが横のつながりを持ち、地域に新しい文化や生活習慣をつくりあげてきた。
しかし、今のタワーマンションでは、そのような関係が生まれにくい。すでに人が暮らしている地域に、高い建物が建てられ、収入の多い人たちがあとから住むようになる。そのため、そうした人々は、まわりの地域のなかで、物理的にも心理的にも孤立しやすい。
タワーマンションの住民は、近所との関わりをできるだけ減らし、便利さと安全を重視して暮らしている。建物の共用部分は管理会社が管理しており、住民どうしのつながりを前提としていない。そのため、近くにある店や暮らしの文化に対する理解が浅く、ちょっとしたちがいがすぐに「問題」として扱われやすい。
これに対して、昔からその地域に住む人や店は、生活の音やにおい、人との会話などを、都市のふつうの風景として受け入れてきた。前述のうなぎ店の煙も、ただのにおいではなく、長い年月この土地で仕事を続けてきた証である。
だが、その煙が、タワーマンションに住む人たちにとって「快適な生活をじゃまするもの」と見なされたとき、双方の感じ方のちがいは、深い断絶を生むことになる。