都心「巨大再開発」もういらない? 新宿駅南口プロジェクト「工期未定」の大波紋――建設費1.4倍が示す“都市開発モデル”の限界
JR東・京王の“投資判断の変化”

新宿再開発は、プロジェクト全体の抜本的な見直しに入る可能性がある。背景には、事業主体である
「鉄道会社の投資戦略の転換」
がある。まず、オフィス市場の二面性が事業判断を難しくしている。現時点では、東京のビジネス地区における賃料は1坪あたり2万481円で、前年比+3.56%と堅調。空室率も3.94%にとどまり、需給バランスは良好とされる。一方で、2025年以降は大型開発の集中により空室率が6.7%まで上昇し、賃料の下落も予測されている。
ホテル需要も先行きが読みにくい。インバウンド(訪日外国人)需要は回復傾向にあり、2025年には4000万人を超えると見込まれている。しかし、
・ウクライナ情勢
・中東の不安定化
・為替の不透明性
といった外的要因の影響を受けやすく、長期的な需要見通しは立てづらい。こうした状況から、オフィスとホテルという異なる市場リスクを併せ持つ複合開発は、事業性評価が一段と複雑化している。
加えて、鉄道会社側の経営方針も変化している。京王電鉄は、鉄道事業の収益悪化を受けて不動産事業を強化する一方、
「大規模投資に耐える財務基盤の構築」
を掲げている。私募ファンドを活用した資産流動化によって、資金調達手法を多様化し、投資リスクの抑制に動いている。
JR東日本も同様に、複数の大型開発を抱えるなかで資金効率の最大化を志向している。たとえば、高輪ゲートウェイシティには総額6000億円を投じつつ、2022年からは「回転型ビジネスモデル」を導入。開発物件をファンドに売却し、得た資金を成長分野に再投資するという戦略を進めている。
すでに巨額の資金を投じている事業を多数抱えるなかで、新宿のような新たな超大型再開発は、キャッシュフローの観点からも慎重な姿勢を取らざるを得ない。両社に共通するのは、鉄道以外の収益源を模索する一方で、コスト高と需要不確実性を抱える
「超大型プロジェクトに対する投資リスクへの警戒感」
である。新宿再開発は、まさにそのリスクの象徴となりつつある。