自動車の「脱出用ハンマー」が標準装備されない根本理由――水没時で命を救えるのに、なぜ?
近年、台風や豪雨による車内水没事故が増加し、命を守る緊急脱出用ハンマーの重要性が浮き彫りとなった。だが国内の自動車では標準装備例が少なく、国交省も普及促進に動く。合わせガラスの採用率は主要メーカーで最大23%に達し、脱出の壁となる一方、保管場所やコスト、法的リスクも標準装備化を難しくしている。こうした複雑な課題を踏まえ、ユーザーの自主的な備えが求められている。
保管場所・取り扱い・法的リスクの壁

緊急脱出用ハンマーの標準装備化を妨げるもうひとつの要因は、車内での保管場所や取り扱いの難しさである。緊急時に素早く手に取れる場所に設置する必要があるが、実際にはグローブボックスや荷室など手の届きにくい場所に収納されることが多い。
運転席のドアポケットやセンターコンソールなど、ドライバーがすぐにアクセスできる場所が理想的だ。しかし車種や内装デザインによってはスペースの確保が難しい場合もある。さらに、夏場には車内温度が70度を超えることもあり、プラスチック製の部品は高温で変形し、性能が低下する可能性もある。
また、工具としてのハンマーを車内に常備している場合、緊急脱出用ハンマーが一般的な工具と外観が似ていると、状況によっては警察から用途を確認される可能性もある。
こうした保管上の問題や法的リスクを考慮すると、メーカーは「標準装備」として全車種に搭載することに慎重にならざるを得ない。実際、市販されている緊急脱出用ハンマーはユーザーが任意で購入し、設置場所も各自で決めるケースがほとんどだ。
加えて、緊急脱出用ハンマーの実際の使用頻度は極めて低い。2020年8月に国民生活センターが実施したアンケート調査によると、緊急脱出用ハンマーを実際に使用した人は自動車保有者の
「3.76%」
にとどまっている。このため国土交通省や消防庁は、緊急脱出用ハンマーの重要性について注意喚起している。豪雨や水害時の備えとして装備を検討するよう呼びかけているのだ。しかし、メーカーやユーザーは使用頻度が低い装備に対し、コストやスペースを割くことに慎重になる傾向が強い。
このように、迅速に解決できないさまざまな要素が絡んでいるため、緊急脱出用ハンマーをすぐに標準装備にできない状況が続いている。