自動車の「脱出用ハンマー」が標準装備されない根本理由――水没時で命を救えるのに、なぜ?
近年、台風や豪雨による車内水没事故が増加し、命を守る緊急脱出用ハンマーの重要性が浮き彫りとなった。だが国内の自動車では標準装備例が少なく、国交省も普及促進に動く。合わせガラスの採用率は主要メーカーで最大23%に達し、脱出の壁となる一方、保管場所やコスト、法的リスクも標準装備化を難しくしている。こうした複雑な課題を踏まえ、ユーザーの自主的な備えが求められている。
ドアガラスの合わせガラス化

緊急脱出用ハンマーが標準装備されにくい最大の理由のひとつに、近年増えている「合わせガラス」の存在がある。国民生活センターの調査によると、国内主要自動車メーカー8社のうち5社が、全車種の6.7~23.1%でドアガラスに合わせガラスを採用している。
合わせガラスとは、2枚のガラスの間に樹脂フィルムを挟み込んだ構造である。割れにくく、万が一割れても飛散しにくいという安全性や防音性に優れている。しかし、この高い強度が裏目に出て、緊急脱出用ハンマーでも破砕が難しいという課題がある。
国土交通省や国民生活センターのテストでも、合わせガラスは一般的なハンマーでは割れにくい場合があることが確認されている。そのため、メーカーは
「全車種にハンマーを標準装備しても、ガラスの仕様によっては役に立たない可能性がある」
というジレンマを抱えている。さらに、ハンマーを使った脱出法をユーザーに周知する際にも、「合わせガラスは割れない」という正しい知識を伝える必要がある。このため、装備の義務化や標準化が進みにくい現状がある。