なぜJR武蔵野線と西武池袋線は「直通運転」に踏み切るのか? 乗換え500m・急行通過駅の課題をどう克服? 郊外間新移動圏を考える

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JR東日本と西武鉄道が2028年度を目標に武蔵野線と西武池袋線の直通運転を検討中だ。既存の不便な乗り換えを解消し、郊外間の新たな移動需要創出を目指すこの計画は、首都圏鉄道網の利便性向上と地域経済活性化に向けた戦略的布石といえる。

所沢を軸に描く広域交通ハブ構想

西武池袋線(画像:写真AC)
西武池袋線(画像:写真AC)

 西武鉄道は今回の直通計画に、どのような展望を描いているのか。

 西武池袋線は、池袋という巨大ターミナルに直結している。現在は東京メトロ副都心線・有楽町線をはじめ、東急東横線や横浜高速鉄道みなとみらい線とも相互直通運転を実施。都心各所へのアクセス性は大きく向上している。さらに、練馬~石神井公園間の複々線化など設備投資も進み、高い競争力を維持している。

 しかし、西武池袋線も例外ではなく、少子高齢化による郊外人口の減少という構造的課題に直面している。私鉄各社が都心直結の強みを活かし、利便性を武器に沿線人口を確保してきたのと同様、西武もこれまで相互直通運転を通じて利用者を支えてきた。

 そうしたなかで、西武鉄道が重視してきたのが

「旅客流動の創出」

である。2005(平成17)年、グループ再編の只中にあった西武は、鉄道事業が今後飛躍的に拡大することは困難だと判断。早くから企業戦略の転換を図った。2010年代には秩父エリアへの観光客誘致を強化。アニメイベントや映画祭を展開し、秩父地域おもてなし観光公社への社員派遣などを通じて、沿線自治体と連携したプロモーションにも注力してきた。現在も、西武園ゆうえんちのリニューアルをはじめ、レジャー施設を活用した集客策を展開している。

 今回、所沢駅と武蔵野線が直結すれば、これまで西武線との接点が少なかった武蔵野線沿線、特に埼玉県東部(越谷市・三郷市・吉川市)や千葉県北西部(新松戸周辺)からの流動が見込まれる。これにより、秩父・飯能といった観光地やレジャー施設へのアクセスルートが広がる。既存の通勤・通学利用に加えて、新たなレジャー・観光需要を開拓する契機になる。

 また、直通計画の中心に位置する所沢駅の広域ハブとしての役割も強まる見通しだ。これは、西武鉄道が進める沿線価値の向上戦略とも連動する。所沢駅周辺では、駅直結の大型商業施設「エミテラス所沢」が開業するなど再開発が進展している。かつてのベッドタウンが、再び人を引き寄せる都市拠点として変貌しつつある。

 テレワークの定着や人口構成の変化により、郊外に住みたいという新たな需要も生まれている。そうした時代に求められるのは、

「郊外であっても交通利便性の高い場所」

である。この直通計画は、その条件を満たす布石となる可能性がある。

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