なぜJR武蔵野線と西武池袋線は「直通運転」に踏み切るのか? 乗換え500m・急行通過駅の課題をどう克服? 郊外間新移動圏を考える

キーワード :
, ,
JR東日本と西武鉄道が2028年度を目標に武蔵野線と西武池袋線の直通運転を検討中だ。既存の不便な乗り換えを解消し、郊外間の新たな移動需要創出を目指すこの計画は、首都圏鉄道網の利便性向上と地域経済活性化に向けた戦略的布石といえる。

鉄道39.4%に潜む転移余地

 改めて、JR武蔵野線・新秋津駅と西武池袋線・秋津駅の乗り換え改善について考える。筆者(弘中新一、鉄道ライター)はかつて、約1か月にわたりこの乗り換えルートを利用していた。率直にいって

「本当にここは乗換駅なのか」

と疑問を抱くほど不便である。両駅の距離は約500mと許容範囲ではあるが、問題はその動線だ。間に屋根がなく、雨天時には通行が混雑する。高齢者やベビーカー利用者にとっては、選択肢から外れるような環境といえる。

 さらに、西武池袋線の秋津駅が急行通過駅である点も看過できない。これでは、乗換駅としての機能を十分に果たしておらず、利用者にストレスを与え、地域価値の低下にもつながってきたと考えられる。

 所沢市が策定した「所沢市地域公共交通計画(素案)」によれば、通勤・通学目的での交通手段として鉄道が39.4%、自動車が23.0%を占める。一方、私事目的では構成が逆転し、自動車が36.9%、徒歩が30.4%、鉄道は11.3%にとどまっている。

 もちろん、所沢市と秋津(東村山市)を同一視することはできない。しかし、これまでの沿線において、鉄道は利便性の高い移動手段とは認識されてこなかったことが読み取れる。いい換えれば、利便性を向上させれば、自家用車から鉄道への転換が一定程度期待できるということだ。今回の直通運転は、まさにこうした乗換回避層の取り込みを狙った施策と位置づけられる。なかでも期待できるのが、

「私事利用の活性化」

である。西武線沿線の観光地誘客が進められているが、その逆方向、すなわち西武線沿線から武蔵野線沿線への流動も見込まれる。例えば、南越谷駅(イオンレイクタウン最寄り)や新三郷駅(ららぽーと、コストコが駅直結)へのアクセスは、直通運転により格段に向上する。

 鉄道事業における新たな市場の開拓と、利用層の拡大。今回の直通運転には、その可能性が確かにある。

全てのコメントを見る