埼京線十条駅前にそびえる「明るい廃墟」 なぜ開業1年で“テナント半数空室”なのか? 哲学なき再開発が招いた虚しさと喪失
十条駅前に誕生した「ザ・タワー十条」は、1億円超の住戸と複合商業施設を擁する再開発の象徴だ。しかし開業1年未満でテナントは半数が空室、坪3万円近い賃料と導線不備が足を引っ張る。防災目的の再開発が「明るい廃墟」へと転じた現実が、東京の都市再生に警鐘を鳴らす。
39階高層マンション億ション市場参入

東京都北区十条には、「東京三大銀座」のひとつとして知られる十条銀座がある。砂町や戸越と並び、賑わいを見せるアーケード街だ。昭和30年代の風情が色濃く残るレトロな街並みは、今もなお多くの人々を惹きつけている。
惣菜屋には作りたての揚げ物が並び、和菓子屋では手作りのあんこが自慢だ。これらの店舗は多くのメディアにも取り上げられている。商店街の衰退が叫ばれて久しいなか、買い物客が絶えない希少な存在である。
かつて十条には、西口側に十条西口商店街があった。こちらも下町情緒あふれる商店街として親しまれていたが、駅前の再開発にともない2020年から順次建物が解体され、姿を消した。
その跡地には2024年、39階建ての高層マンション「ザ・タワー十条」が完成した。間取りは2LDKから4LDK、住戸面積は58平方メートルから92平方メートル。販売価格は8050万円から1億5890万円のいわゆる「億ション」として、不動産業界で大きな話題となった。
この高層マンションの下層階と隣接する別棟には、マンション住民以外も利用可能な施設が整備されている。1階と2階にある商業施設「J&Mall(ジェイトモール)」には、高級スーパーの「クィーンズ伊勢丹」や飲食店「サーティワン」「松屋」、コンビニ2店舗(セブンイレブンとファミリーマート)、美容室などが入居している。
3階から4階は、書籍閲覧コーナーや3Dプリンターの製作スペース、音楽やダンススタジオとして使える多目的ルームを備えた文化施設「ジェクトエル」だ。さらに、北区の税務署も入居している。これにより、十条地区の行政サービスの拠点としての役割も果たしているといえる。