埼京線十条駅前にそびえる「明るい廃墟」 なぜ開業1年で“テナント半数空室”なのか? 哲学なき再開発が招いた虚しさと喪失
案内図不備で迷う来訪者
原因としては周辺より高い賃料が大きく影響している可能性が高い。例えば、1階の医療系店舗の募集坪単価は2万5000円から3万円程度だ。一方、周辺の十条銀座では坪単価1万4000円程度の物件も存在する。建物の新しさを考慮しても、明らかに周辺より割高である。このため、かつて十条西口商店街にあった店舗も、固定費を恐れて入居を躊躇するだろう。
また、この建物は導線が非常にわかりにくい。2025年5月24日に筆者が訪れた際は、建物の案内図にクイーンズ伊勢丹しか記載がなく、他テナントの位置が全くわからなかった。スマホの地図アプリでもどの位置にあるか把握できない。さらに、モールの公式ホームページも存在しない。目的の店舗を見つけるには、来訪者が自力で探すしかない状況である。
素人目ながら気になるのは、1階テナントの入りにくさだ。一般的に商業施設の1階は、化粧品店や食料品店、カフェなど気軽に立ち寄れる店が多い。しかしジェイトモールの1階に入居するのは、
・コンビニ(ファミリーマート、セブンイレブン)
・飲食店(サーティワン、松屋、バーガーキング、インド料理店「ベンティカ」)
・不動産会社
・買取専門店
・クリニック
・クリーニング店
などだ。コンビニを除けば、ふらっと立ち寄りにくい店が多い。ここにカフェや食品スーパーがあれば、マンション住民以外の利用も増えた可能性が高い。
また、食料品売場が2階にある点も一般的なスーパーとは異なる構造だ。イオンやイトーヨーカ堂などの総合スーパーを利用する人には、わかりづらい配置といえる。実際、「クィーンズ伊勢丹」は2階の存在を強調する看板を掲げていた。このことから、スーパーが2階にある構造への違和感が浮き彫りになっている。
建物の構造にも疑問が残る。建物は外部に開放された部分があり、雨の日には入口まで雨水が入り込む可能性がある。アーケード街の十条銀座に比べて快適性は劣るだろう。外部に開いている部分は、エアコンが効かない場所があることも意味する。そのため夏は暑く、冬は寒い環境になりやすい。複数店舗を回遊して楽しむには適していない施設だといわざるを得ない。