新幹線「6割引セール」は客寄せパンダ!? 「LCC化」戦略で販売力弱体化の懸念、根本需要の拡大につながるのか
割引きっぷ神話の終焉と収支悪化リスク

これを理解するには、旅行に関連する物価の変動を見る必要がある。総務省が公表している「2020年基準 消費者物価指数(CPI)」のなかから、品目別の価格指数(全国・年平均)をもとに、旅行関連の主要項目を抽出した。
●宿泊料の変動(教養娯楽サービスに分類)
・2020年:▲16.7%(コロナ禍で大幅下落)
・2021年:+15.7%(反動と回復傾向)
・2022年:▲1.0%
・2023年:+17.3%(急上昇)
・2024年:+14.7%
●航空運賃の変動
・2020年:▲1.2%
・2021年:+0.4%
・2022年:+7.3%
・2023年:+2.1%
・2024年:+2.1%
●新幹線料金の変動(JR)
・2020年:+1.4%
・2021年:±0.0%
・2022年:▲0.1%
・2023年:+0.5%
・2024年:+0.1%
これを踏まえれば、旅行消費の「回復」は見かけだけだ。実際には、旅行が高くなっただけにすぎない。人の移動はコロナ前より少なく、旅行単価の上昇は宿泊費の高騰によるものだ。
こうした状況では、「安くたくさん乗ってもらう」ことを前提とした週末パスのような割引商品のビジネスモデルは成立しにくい。利用者数が減少するなかで、定額制の割引きっぷを続ければ、運賃収入の減少と赤字拡大につながる。
そこでJR東日本が導入したのが「新幹線eチケットのタイムセール」である。期間限定の話題性ある価格を設定し、空席を効率的に埋める仕組みだ。旅行者数の本格的な回復が見込めない中で、現実的な対応策といえる。
JR東日本の戦略転換が業績にどう表れているかを確認するため、2025年3月期第3四半期決算短信を見てみる。運輸事業の売上高は次のとおりだ。
●2023年度
・期間:2023年4月1日~12月31日
・売上高(外部顧客):1兆3749億4900万円
●2024年度
・期間:2024年4月1日~12月31日
・売上高(外部顧客):1兆4519億2800万円
この数字からは、JR東日本が堅実にコロナの後遺症から回復していることが読み取れる。そのうえで今回のタイムセール導入は、人流の回復に過度な期待を抱かず、物価高のなかで販売コストを抑えながら、限られた需要を効率よく取り込もうとする戦略といえる。