鉄道会社は「子育て」で生き残る? いまや共働き世帯「7割」時代! 駅ナカ保育園、小児運賃50円…子育てに相応しい交通環境はビジネスになるか

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人口減少が進むなか、鉄道やバス事業者は沿線の活性化を迫られている。共働き世帯の増加により、通勤や子育て支援の需要が拡大。JR東日本の駅型保育園を皮切りに、私鉄各社も子育て支援施設を展開し、新たな収益源を模索する。学童保育や自習室の導入、低廉な小児運賃の設定など、多様な施策が進むなか、鉄道は地域社会と共存しながら成長できるのか。成功事例をもとに、公共交通と子育て支援の未来を探る。

鉄道駅の空間有効活用と駅型保育施設

子育て支援数数の施設(画像:JR東日本)
子育て支援数数の施設(画像:JR東日本)

 1995(平成7)年頃、共働き世帯が増え始めた時期に、大学生だった筆者(西山敏樹、都市工学者)はJR東日本の担当者と「未来都市の駅」をテーマに意見交換をする機会があった。その際、「駅に保育園や幼稚園を設置できないか」という提案が挙がり、議論が盛り上がった。特に女子学生からの賛同が多かった。この議論が直接影響を与えたかは不明だが、1996年、JR東日本は「駅に保育園があったら送り迎えにも便利」という発想のもと、国分寺に初の駅型保育園を開設。その後も地元自治体と連携しながら、積極的に保育園の展開を進めている。

 JR東日本は、駅チカや駅ナカの子育て支援施設として

・保育園
・学童保育
・事業所内保育所
・交流コミュニティ広場
・放課後等デイサービス

などを整備し、2025年度には合計170か所まで拡大する計画を進めている。事業エリアの広さもあり、JR東日本はこの分野のパイオニア的存在となった。その後、京王電鉄、京浜急行電鉄、小田急電鉄、西武鉄道、東急電鉄などの私鉄各社も駅型保育所を展開。鉄道事業者にとって、経営面でのメリットが大きい事業といえるだけでなく、地域社会への貢献度も高い。

 企業主導型保育事業の保育料は利用者負担額として定められ、事業者側は合理的な理由なく上限を超えた料金を設定できない。現時点での目安は次のとおりだ(内閣府「幼児教育・保育の無償化に伴う企業主導型保育施設の対応の全体像について」(2023年)より引用)。

・0歳児:3万7100円
・1~2歳児:3万7000円
・3歳児:2万6600円
・4歳児~:2万3100円

 民間学童の利用料金は幅があるものの、月額4万円から8万円(14時~18時の開所)が一般的だ。公立の学童や放課後子ども教室の月額1万6000円程度と比べると、高額な設定となっている。

 鉄道駅であれば、早朝の学童保育や19時以降の夜間学童保育の運営も可能だ。延長料金は民間学童によって異なるが、30分ごとにひとり600~800円程度の収益が見込める。民間学童は私立学校と同様、運営企業が独自の教育サービスを提供できる点が強みだ。他の学童にはない特色あるプログラムを用意することで、利用者の選択肢として優位に立つことができる。

 実際、民間学童では英会話、ピアノ、バレエ、サッカーなどの習い事を取り入れ、他と差別化を図る例が多い。施設の面積によって収容人数は異なるが、上記の金額を基準にすればビジネスシミュレーションが可能だ。

 今後、競争のポイントは保育サービスの質の向上にある。ただし、最大の課題は少子化だ。より多くの子どもたちを駅に引きつけるため、新たな方法論が求められる。

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