なぜ地方は「ドラッグストア」だらけなのか? 食料品がこんなに安い理由は? イオンに匹敵する地方の新たな支配者、乱立の背景を探る

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地方の風景における「ドラッグストア」の急成長は、モビリティ環境の変化と深く結びついている。イオンの店舗数を上回る2万3041店舗を誇るドラッグストア業界は、低価格の商品と高利益率商品を巧妙に組み合わせ、地域密着型のビジネスモデルで急速に拡大。高齢化社会に対応した地域医療拠点としての役割も果たし、今後の再編と競争激化が予測される。

地方経済を支配するドラッグストア

ドラッグストアチェーンのイメージ(画像:写真AC)
ドラッグストアチェーンのイメージ(画像:写真AC)

 地方の風景と聞くと、多くの人がイオンを思い浮かべるだろう。しかし、実際に地方を巡ると、そのイメージが誤りであることに気づく。現在、地方で最も存在感を放っているのは、乱立する「ドラッグストア」だ。

 2025年1月、X(旧ツイッター)まとめメディア・トゥギャッターでも「田舎にはイオンしかないというのは解像度が低い→ドラッグストアが乱立していて支配されるのが田舎」が盛り上がりを見せた。

 この変化は、地方のモビリティ環境の変遷と密接に関係している。かつて地方の買い物の中心は、駅前商店街や大型ショッピングモールだった。しかし、モータリゼーションの進展により、自家用車での移動が一般化し、広い駐車場を備えた郊外型店舗が支持されるようになった。その流れのなかで、スーパーマーケットやホームセンターと並び、ドラッグストアが新たな商業の主役として台頭した。

 ドラッグストアは、郊外の幹線道路沿いや住宅街の入り口など、自動車でのアクセスが容易な場所に集中して出店する傾向がある。駐車場の完備率も極めて高い。その結果、近隣住民だけでなく、車で数キロ圏内からの来店客も取り込める。

 さらに、地方では公共交通の衰退が進み、高齢者や免許返納者の移動手段が限られている。こうした状況に対応するため、多くのドラッグストアが調剤薬局を併設し、地域のヘルスケア拠点としての役割も果たすようになった。処方薬の受け取りに加え、食品や日用品の購入がワンストップで可能となり、

「日常の移動距離を最小限に抑えたい」

と考える消費者にとって、ますます欠かせない存在となっている。

 その影響力は、数字にも表れている。イオンの全国店舗数が1万7887か所であるのに対し、ドラッグストアは381社2万3041店舗(日本チェーンドラッグストア協会、2023年度調査)にまで拡大。売上高では、イオンが9兆5535億円であるのに対し、ドラッグストア業界全体で9兆2022億円と、ほぼ肩を並べる規模に成長している。

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