なぜ地方は「ドラッグストア」だらけなのか? 食料品がこんなに安い理由は? イオンに匹敵する地方の新たな支配者、乱立の背景を探る

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地方の風景における「ドラッグストア」の急成長は、モビリティ環境の変化と深く結びついている。イオンの店舗数を上回る2万3041店舗を誇るドラッグストア業界は、低価格の商品と高利益率商品を巧妙に組み合わせ、地域密着型のビジネスモデルで急速に拡大。高齢化社会に対応した地域医療拠点としての役割も果たし、今後の再編と競争激化が予測される。

進化の裏にある計算された収益構造

ドラッグストアチェーンのイメージ(画像:写真AC)
ドラッグストアチェーンのイメージ(画像:写真AC)

 では、ドラッグストアはどのようなビジネスモデルで急成長を遂げたのか。一見すると、ドラッグストアは薬や化粧品を専門に扱う小売店のように思える。しかし、それは過去の概念にすぎない。日野眞克氏の『ドラッグストア拡大史』(イースト新書 2021年)では、ドラッグストアの進化について次のように述べられている。

「「日本でもっとも遅れて登場し、平成時代の後期に大成長した「総合業態」である」

 その成長を支えるのは、巧妙な収益構造だ。この構造は、

・低原価率商品
・高利益率商品

の組み合わせによって成り立っている。具体的には、日用品や食品を非常に低い利益率で提供することで、顧客を店舗に引き寄せている。食品の粗利率は15.1%と、

「コンビニの半分以下」

で、場合によっては原価ギリギリや赤字覚悟で販売することもある。この戦略は一見非効率的に思えるが、実際には緻密な計算に基づいている。

 なぜなら、店舗に引き寄せた顧客に対して、医薬品や化粧品などの高利益率商品を提供することで、全体としての収益を確保しているからだ。市販薬の場合、大手チェーンでは販売価格の60~70%が店舗の取り分となっている。また、化粧品の原価率は20%未満であり、非常に高い利益率を誇る。

 この収益構造によって、ドラッグストアは食品や日用品を安価で提供しながらも、全体として高い収益性を実現している。重冨貴子氏の論文「ドラッグストア業態の動向と商品構成の変化、および、企業戦略の方向性-ドラッグストア業態の展望と課題-」(『流通情報』No.556)によると、2020年の売上構成比では、医薬品・化粧品関連カテゴリーが市場規模の約半分(49.0%)を占めており、2012年以降は食品・酒カテゴリーの構成比も増加し、2020年には約3割(27.8%)に達している。

 食品分野への進出は、ドラッグストア業態そのものを大きく変えつつある。特に注目すべきは、従来スーパーマーケットの専門分野とされていた生鮮食品への参入だ。2012(平成24)年、クスリのアオキが一部店舗で生鮮食品の販売を開始した後、各社は青果や精肉、さらには鮮魚まで取り扱う店舗を展開している。2022年3月時点では、ドラッグストア上場企業12社中9社が生鮮食品を取り扱っている。

 さらに、一部の企業は地域のスーパーマーケットを買収し、食品販売のノウハウを取得したり、生鮮食品をフルラインで取り扱う大型店舗を出店したりするなど、「医薬品・化粧品の専門店」から

「食品も取り扱う総合業態」

への進化を遂げている。この業態転換により、特に地方ではドラッグストアが日常の買い物の中心的な存在となりつつある。

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