なぜ地方は「ドラッグストア」だらけなのか? 食料品がこんなに安い理由は? イオンに匹敵する地方の新たな支配者、乱立の背景を探る
地域医療拠点としてのドラッグ戦略

一見、この状況は過当競争を引き起こしているように見える。
例えば、『中日新聞』2023年11月20日付電子版では、人口2万人に満たない石川県羽咋市の市道沿線約2kmに4店舗目となるドラッグストアの出店が決まったことを報じている。取材を通じて、新規参入するコスモス薬品は
「商圏人口1万人でも成り立つ」
と判断し、クスリのアオキは「生鮮食料品と処方せんで差別化できる」、ゲンキーも「よい商品を提供することに変わりない」というコメントを掲載している。
実際、過当競争に見えても、各社は収益を見込んでいる。駒木伸比古氏の論文「愛知県におけるドラッグストアの立地分析 チェーンにおける商圏特性の違いに注目して」(『経営総合科学』104)によると、愛知県の主要チェーンの店舗は、最低でも80%以上が医療施設から徒歩圏内(500m以内)に立地しているという。これは、各社が高齢化社会における地域医療拠点としての役割を意識した戦略を取っていることを示している。
その結果、過当競争が指摘されるなかでも、業界は成長を続けている。特に調剤部門では、2015年度の7158億円から2023年度には1兆4025億円と、約2倍の成長を実現している。
将来的な競争激化への懸念が高まっているなか、ドラッグストア業界では再編の動きが加速している。その中心的な役割を果たしているのがイオンだ。
2024年2月、イオンの子会社で業界首位のウエルシアHDと、イオンが13.59%を保有する2位のツルハHDが経営統合を発表した。イオンはさらにツルハ株を追加取得し、グループ会社化する方針で、この統合により売上高2兆円超の巨大ドラッグストアグループが誕生する。
この再編は単なる業界再編にとどまらない。小商圏で成立するドラッグストアの経営ノウハウと、イオンの多様な小売業態の運営力が融合することで、より強固な地域密着型の小売グループが誕生する可能性を示唆している。
皮肉なことに、地方でイオンの存在感を上回ったドラッグストアの成功が、新たな形でイオンの地域における影響力を一層強化することになるだろう。