ホンダとソニーが提携 異業種の「越境事業」は社員のキャリア形成に役立つのか
新事業が社員にもたらすもの
2022年3月4日、本田技研工業(ホンダ)とソニーグループが提携すると報じられた。異業種の垣根を越えて自動車メーカーと電機メーカーの雄を結びつけたのは、電気自動車(EV)という新しい事業分野だ。
同じく「空飛ぶクルマ」も、異業種が垣根を越えて協力し合う新しい事業分野のひとつになっている。2020年にはトヨタ自動車が、電動垂直離着陸機(eVTOL)を開発するアメリカのJoby Aviationに出資した。日本航空(JAL)はドイツのVolocopterと、スズキはスタートアップのスカイドライブとの提携を発表している。
新しい事業分野が生まれると、心配ごとに目が行きがちだ。EVなら、ソニーと組んで造る自動車は、果たしてホンダ車ファンを満足させられるのか。空飛ぶクルマなら、eVTOLの安全性に問題はないのか、関係する法整備はスムーズに進むのか、など。
一方で、新しい事業に取り組むこと自体にはポジティブな側面があることにも着目したい。EVや空飛ぶクルマなど異業種をまたぐ事業が生み出す越境機会は、働き手のキャリア形成に新たな選択肢をもたらしてくれる可能性がある。
これまで終身雇用の企業文化に慣れ親しんできた日本の働き手は、新卒で入社した会社の中で年次と職責を上げ、定年まで勤め上げるという一本道のキャリアを基本としてきた。
そのため、キャリアの選択肢は必然的に会社が取り組む事業領域内に限定されてしまう。入社後、事業領域への興味が薄れたり、自分の能力が生かしづらいと感じたりしても、一本道のキャリアに縛られていると身動きがとれず、活躍の道をあきらめざるを得ない。ところが、新しい事業などで異業種をまたいだ越境機会が訪れると、一本道のキャリアの先に新たな展望が描けるようになる。
例えば、ソニーのような電機メーカーがEV開発に携わると、社員は電機メーカーで磨いた技能を自動車作りにおいても生かすことができる。同様に、JALのような航空会社が空飛ぶクルマを用いたエアタクシーサービスを提供するようになれば、タクシー会社で培った配車経験を航空会社で生かしたり、航空会社で培った接客や整備などの技能をタクシー会社で生かしたりする道も生まれてくる。