もはや「お客様 = 神様」ではない? でも、そんな“お客様”に食べさせてもらっているのもまた事実! バス運転手の目線で考える
「神様」の時代の終焉

昭和~平成の日本では、
「お客様は神様です」
という言葉が、サービス業界で広まっていた。このフレーズは、顧客を最優先にし、最大限の敬意を払うことを理想とするものであった。演歌歌手の三波春夫(1923~2001年)が本来伝えたかった内容とは異なる形で誤解されている指摘も多いが、事実ではなく認識として、この“共同幻想”が社会に浸透していた以上、議論する価値はある。しかし、ときが経つにつれて、この言葉が現場の労働者に過剰な負担を強いる側面も明らかになり、現代では「神様扱いは行き過ぎだ」という認識が広がっている。
バス業界も例外ではない。長時間労働や低賃金が課題とされるなか、バスドライバーたちは多様な乗客と向き合い、時には理不尽な要求やトラブルに対応している。「神様ではない」と思いたくなる場面も少なくないだろう。しかし、同時に、乗客がいなければ自分たちの仕事は成り立たないという現実もある。このふたつの視点の間で揺れるドライバーの心情に寄り添いながら、公共交通の未来について考えていきたい。
ドライバーの仕事は、一見すると「運転業務」に見えるかもしれないが、実際には安全運転を守りつつ、定刻通りの運行を行い、トラブルやクレームに対応するなど、さまざまな役割を担っている。彼らの一日は、始発前の点検から始まり、終バス後の清掃や運行記録の整理で終わる。道路状況や天候の変化に対応し、安全運転を心掛けることは容易なことではない。
また、乗客とのやり取りも重要な仕事の一部だ。例えば、高齢者が乗り降りする際には車両を安定させる配慮が必要であり、観光地を走行する路線では乗客から道案内を求められることもある。一方で、理不尽なクレームや無賃乗車といった問題も頻繁に発生する。こうした多様な状況に対応しながら、ドライバーたちは常に
「プロフェッショナル」
としての振る舞いが求められる。