「むしろ再配達が倍増する」 物流ジャーナリストの私が安易な「再配達有料化論」に警鐘を鳴らすワケ

キーワード :
, ,
「再配達削減のため、再配達を有料化すべきだ」、再配達が一向に減らないことからこんな意見が出始めているが、筆者は反対である。むしろ、再配達の有料化は、再配達を倍増させる危険がある。

有料化のベースにある発想

物流トラック(画像:写真AC)
物流トラック(画像:写真AC)

 再配達を有料化しようという発想のベースにあるのは「罰金を科せば、人は行動を改める」、もっといえば、

「人は自分の損になる行動はしない」

という考え方である。興味深い社会実験がある。紹介しよう。「保育園のお迎え時間を守らない保護者」に対し、イスラエルの経済学者らは次の実験を行った(出典は「人の心に働きかける経済政策」(翁邦雄))。

・実験を行ったのは、10か所の保育園。半分の保育園には後述の罰金制度を導入し、半分の保育園には対照実験(実験の効果を調べるため、実験対象となる条件を除いて、他の状況を実験対象と同じにすること)として、罰金制度は導入しなかった。
・実験期間は、20週間。最初の4週間は何もせず、5週目から15週目まで、実験対象の保育園では、お迎え時間を遅刻した保護者に対し罰金を科した。
・16週目から20週目については、実験対象の保育園でも罰金を撤廃した。
・罰金は、1回10シュケル(約430円)。ちなみに保育園の月謝は、1400シュケル(約6万円)

 実験結果は次のとおりだ。

・最初の4週間、実験対象保育園と、実験非対象保育園では、遅刻数に差はなかった。
・5週目以降、実験対象保育園では、遅刻者が倍増した。
・16週目以降、実験対象保育園では罰金制度を撤廃したにもかかわらず、遅刻数は減らなかった。

なぜ、このような結果になったのだろうか。出典元では、ふたつの考察を紹介している。

・罰金制度の導入は、「遅刻を増やしても退園などの厳罰を受けたりすることはない」という安心感を保護者に与えた。
・罰金制度の導入によって、保護者たちは、「先生は、閉園後も子どもの世話をするが、それには対価が払われる。だから、遅刻は許される」という認識に置き換わった。

 なお、罰金制度を撤廃しても遅刻が減らなかったのは、

「保育園経営者の寛大さを保護者が見切った結果」

であり、これは、一度壊してしまった人の行動原理は、そう簡単に回復しないということを示しているという。

全てのコメントを見る