「むしろ再配達が倍増する」 物流ジャーナリストの私が安易な「再配達有料化論」に警鐘を鳴らすワケ
抑止効果が見込まれる「ポイント還元」

前述の「再配達半減に向けた緊急対策事業」における実証実験として、次のような取り組みが行われた。
・ファンケルは、置き配を指定して顧客に対し、1回あたり10ポイントを付与する実証実験を実施。
・アスクルが運営するネット通販「LOHACO(ロハコ)」で、配送日に余裕を持たせる(通常最短は翌日配送)「おトク指定便」の実証実験を行ったところ、約半数の利用者が「おトク指定便」を選択した。
・「LOHACO」の結果を受け、Yahoo!ショッピングでは、全ストアに「おトク指定便」を拡大。指定した配達日によって10~30円相当のPayPayポイントを還元。
再配達抑止につながるような消費者の行動を促すためのポイント還元の原資は、もちろん配送料金に反映させておく必要がある。ただ、数十円程度のポイント還元であれば、むしろ今まで再配達に要していた再配達コストを考えると、配送料金を現状のまま維持しても、コストダウンにつながる可能性のほうが高い。
再配達、さらにいえば、「物流クライシス」に限らず、すべての社会課題に共通することなのだが。これだけ多様化し、さまざまな価値観が存在する現代社会において、
「これさえ行えば、◯◯という社会課題は一発解決」
といった、カンフル剤のような対策は存在し得ない。だからこそ、可能性のある施策をいくつも積み重ねて、大きな効果を導く必要がある。
本稿では、再配達の有料化に反対する立場を取ったが、モノによっては再配達有料化のほうが、再配達削減に効果的な場合も考えられる。例えば、発売日が決まっている漫画、ゲームソフトなどであれば、次のような施策が考えられる。
・発売日に配送指定をする場合、再配達になった場合には再配達料金を課す。
・発売日以降に配送指定をすると、ポイント還元をする。
再配達料金という「ムチ」、ポイント還元という「アメ」を使い分けることで、配送が集中する波動を平準化し、配送現場への負担を軽減することが期待できる。
岸田内閣は、「物流革新」政策において、再配達率を現在の約半分である6%まで削減するという目標を掲げた。ただしこれは相当難しい。ここ数年、再配達率に大きな変化がないことが、再配達率削減の難しさを示している。
この難問を解消できるのか、政府の手腕が試されている。