率直に問う 京都は歴史ある「古都」か? もはや単なる「テーマパーク」か? 悪マナー横行の“観光公害”で考える

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観光地の「テーマパーク化」は、表面化や一極集中を招き、その結果、文化や歴史といった深い部分が失われる危険性がある。持続可能な観光の推進と、地域社会の意見を取り入れた適切な管理が求められている。

テーマ化観光、歴史との葛藤

京都(画像:写真AC)
京都(画像:写真AC)

 とにかく、SNSを通じて情報を得た旅行者たちは映えるスポットへと集中する。同志社女子大学の齋藤朱未氏・城戸優里奈氏による「京都観光におけるインスタ映えの特徴分析」(『同志社女子大学 総合文化研究所紀要』第37巻)では、京都府内のインスタ映えスポットを分析し

「京都で人気のインスタ映えスポットは伏見稲荷大社、八坂庚申(こうしん)堂、南禅寺、キモノフォレスト、竹林、正寿院であることが明らかとなった」

とし、それぞれの場所の分析を行っている。例えば、投稿分析で人を中心にした撮影がもっとも多い八坂庚申堂は

「八坂庚申堂はカラフルなくくり猿がインスタ映えすることで有名となり、多くの観光客が訪れ、写真撮影のための列ができている。そのため、写真に他者が写りこむ心配がなく、撮影対象物と自身を撮影することができる環境にある。このことが、人が中心の写真が多い理由の一つとなっていることが推測できる」

としている。この現象は、京都のテーマパーク化とインスタ映え重視の観光がもたらす深刻な弊害を示している。

 そもそも、庚申堂のカラフルな外観に引き寄せられ、SNSに投稿できる写真を撮るために行列に並ぶためだけに古都を訪れることに、本当に意味があるのだろうか。このような行為は、京都の深い歴史や文化的価値を表面的なインスタ映えにすり替え、古都を単なる写真撮影スポットに矮小(わいしょう)化する危険性がある。

 一方、テーマパーク化には肯定的な側面も存在する。川村学園女子大学・高山啓子氏の「テーマ化される観光とまちづくり」(『川村学園女子大学研究紀要』第25巻第1号)では、さまざまな観光は、すべてテーマ化されているとしている。

「近年では遊園地のみならず、レストラン、ホテル、ショッピングモール、動物園、博物館、イベント、地域、観光などに対して、さまざまなテーマが設定されており、テーマ化のあふれる社会といってもよい状況となっている。特に観光に関していえば、テーマ化はコンテンツ・ツーリズムと呼ばれる観光形態と深く関わっているが、むしろコンテンツ・ツーリズムだけでなく、いわゆるニュー・ツーリズムと呼ばれるさまざまなタイプの観光はすべてテーマ化された観光であると言うこともできる」

 テーマ化とは、

「テーマが与えられていることによって、提供される側の経験は特別に意味のある、また楽しみのあるものとして差別化される」

ことを指す。観光産業では、その土地の歴史、文化、産業、著名人などをテーマとすることが多い。高山論文では、神奈川県横須賀市の事例で、軍港都市をテーマに、海軍カレー、ネイビーバーガー、軍港巡りを観光資源に加えた事例、昭和の漁師町として商店街の活性化を図っている神奈川県三浦市の事例も取り上げている。

 つまり、テーマ化、テーマパーク化することによって観光地は魅力を高め、独自性をアピールすることができるというわけだ。

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