路線バス問題だけじゃない! なぜ日本では「移動の自由」に関する真剣な議論が起こらないのか【連載】ホンネだらけの公共交通論(16)
移動は、誰もが心身の健康を増進するために必要不可欠なものである。今こそ日本は、移動の有用性を再考し、政府が「移動する権利」を明確に認める環境を整えるべきだ。
移動の重要性再考

イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンはコロナ禍のなかで、人間が他の人間を支配する最も効果的な方法は
「移動を制限すること」
だと説いた。コロナ禍では、行政が立法を上回る
「一時的な例外状態」
となった場所が世界中に極めて多く存在した。アガンベンは、移動の自由の制限に対して非常に強い警鐘を鳴らし、DX社会と対比させながら、それでも移動の制限を強く否定した。
まさに、物・情報・場という三大欲求を人間らしく満たすためには移動が不可欠であるという立場をとった。人間社会が生存のために大切にしてきた移動という行為そのものの重要性に疑問を呈したのだ。
3年間続いたコロナ禍を脱した今、私たちは次のステージに進もうとしている。通勤や旅行を再開し、移動の有用性を享受している。
移動は、誰もが自らの心身の健康、つまりウェルビーイングを高めるために不可欠なものである。今こそ日本は、移動の有用性を再考し、政府が「移動権」を明確に認める環境を整えるべきときである。読者の皆さんにも、その重要性を認識してもらえれば幸いである。