EV電池の主原料・リチウムを巡る「南米争奪戦」、どう見ても中国が絶対有利なワケ【連載】方法としてのアジアンモビリティ(8)

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急速に変化・成長する経済圏として、世界的に注目されているアジア。この地域発のモビリティ・アプローチが、今後の経済において重要な役割を果たすことはいうまでもない。本連載では、アジアにおけるモビリティに焦点を当て、その隆盛に迫る。

リチウム産業を「国有化」するチリ

チリ・サンティアゴの街並み(画像:写真AC)
チリ・サンティアゴの街並み(画像:写真AC)

 一方、世界のなかでオーストラリアについでリチウム生産量の多いのが、チリだ。同国でも、政権交代によって構図が一変しつつある。

 これまで、同国のリチウム生産をけん引してきたのは米国のアルベマールと同国の化学大手SQMだった。ところが、2022年12月に行われた大統領選挙の決選投票で、格差是正などを掲げる左派のガブリエル・ボリッチ氏が勝利した。そして2023年4月20日、ボリッチ大統領は国内のリチウム産業の

「国有化」

を宣言したのである。

 ボリッチ政権はリチウム生産を担う国有企業を設立する。ただ、民間企業の投資も部分的に認める方針と見られている。また、SQMは2030年まで、アルベマールは2043年までチリでのリチウム生産が認められているが、その先行きは不透明だ。

 注目すべきは、ボリッチ大統領が2022年11月に習近平国家主席と会談していたことである。そして、国有化宣言の前日の2023年4月19日には、チリ産業開発公社(CORFO)が、国内のリチウム付加価値製品開発プロジェクトに関する入札の結果、中国のEVメーカー比亜迪(BYD)の現地子会社によって落札されたと発表したのだ。

 BYDは同国の適格リチウム生産者に指定され、北部のアントファガスタにリチウム電池の正極材工場を建設する。同工場は、炭酸リチウムを原料として、正極材のリン酸鉄リチウムを年間5万t生産する計画だ。

 ただし、チリ政府は、環境に配慮した持続可能な生産方法を求めており、リチウム生産への参入にはリチウム直接抽出(DLE)技術のような環境影響を低減する技術が必要となる。DLEは、塩湖や地層などからくみ取られる塩水(かん水)から直接リチウムを抽出する方法だ。

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