潜水艇「タイタン号」はなぜ沈んだのか? 乗員5人全員死亡――「1人3600万円」ツアーで露呈した、人命軽視の構造
規制をかいくぐり実施されたタイタニック号の海底ツアーで、再び惨事が起きた。先駆的な挑戦であっても、安全を最優先にする枠組みの整備が急務である。
潜水艇事故の安全欠陥

2025年8月、米国沿岸警備隊の調査委員会がまとめた300ページを超える最終報告書は衝撃的な内容だった。
米国のツアー会社オーシャンゲートの潜水艇「タイタン」は、2023年6月18日、ニューファンドランド島セントジョンズを出港した。タイタニック号の沈没地点である水深約3800mに接近中に水深3346m地点で、「重りをふたつ落とした」と報告した直後、大きな音とともに連絡が途絶えた。捜索の結果、潜水艇は水圧で圧壊し、乗員5人全員が死亡したことが確認された。
調査委員会は、潜水艇に構造上の欠陥があり、安全管理が軽視されていたと指摘した。船体は主にカーボンファイバーとチタンの複合材で作られていたが、炭素繊維は潜水艇には不向きとされる素材だ。
設計の問題で、以前の潜航で記録された異音は船体の損傷やひずみの兆候だったが、適切に対処されなかった。複数回の潜水試験で疲労が蓄積し、メンテナンス時に劣化していた可能性のある中古パーツも使われていた。さらに管理費を節約するため、約7か月間も保護されずに野ざらしで放置され、深刻な老朽化を招いていた。