航空業界の「脱炭素化」が、自動車業界より一歩も二歩も遅れている納得の理由
代替燃料の問題

航空機用の代替燃料は「Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)」の頭文字をとってSAFと呼ばれている。SAFは、現在のところ決定的な製造方法がないため、必要な航空燃料の1%にも満たない。
航空燃料は、石油を蒸留して作られる灯油と同様の燃料であるケロシンから作られる。ケロシンの主成分は炭化水素で、炭素と水素の化合物である。SAFは、炭化水素の一種であるパラフィン系炭化水素を原料として人工的に作られた、石油に代わる持続可能な燃料である。
SAFの製造方法は大まかに分けると七つに分類される。
1.FT法による合成パラフィン
2.水素化植物油合成パラフィン
3.アルコール合成パラフィン
4.藻や微生物などを水素処理した合成パラフィン
5.発酵水素化処理した糖によるイソパラフィン
6.非化石燃料の芳香族をアルキル化したパラフィン
7.脂肪酸の熱変換で精製される合成ケロシン
特に、1~3の方法が生産の中心となっている。しかし、SAFの原料である廃材、廃食用油、藻類の調達規模は小さく、生産拡大は遅れている。これが、SAFの価格が従来型燃料よりも高い理由である。
SAFの生産・実運用への導入はすでに欧州で広まっているが、その割合は大きくない。欧州の航空連合は、2025年以降、欧州域内で航空機が給油する際にSAFを含める必要があるとしている。そして、従来の燃料に対するSAFの年間比率を、2025年までに2%、2030年までに6%と設定し、導入を目標としている。
一方、日本は英国と同様、2030年までに10%をSAFに置き換えるという目標を掲げているが、こちらも具体的な道筋は示されていない。
現在予測されているSAFの供給量は、2027年まで予想されるSAFの国内需要を下回る見込みである。SAFの国内安定供給が確保できなければ、潤沢とはいえない欧州産SAFの輸入が必須となり、高価格燃料のシェアをめぐって世界各国と競争せざるを得なくなるのは必至である。したがって、航空産業の脱炭素化は、技術面でも価格面でもブレーキがかかっているのである。