「公共交通無料」は現実的なのか? 人口&税収増の都市も 狙いは回遊促進だけにあらず

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海外の街では、公共交通を運賃ではなく税金や補助金で賄っている例が少なくない。路面電車やバスを無料にした結果、人口や税収の増加につながったケースもある。公共交通の無料化の経緯や狙いを解説する。

公共交通無料化の狙いは回遊促進のほかにも

エストニア・タリンの路面電車とバス(森口将之撮影)。
エストニア・タリンの路面電車とバス(森口将之撮影)。

 新型コロナウイルス感染症の影響で、国内の公共交通は大幅な利用者減少に見舞われた。今後の収束後もテレワークやオンライン会議などは残るはずで、需要は元に戻らないと明言している交通事業者もある。

 ところが欧米では、コロナ禍で公共交通の経営が厳しいという話はあまり聞かない。それもそのはず、交通事業者の財源が運賃主体というのは、先進国では日本ぐらいだからだ。

 例えばMaaSを生んだフィンランドの首都ヘルシンキの公共交通は、収入の約半分が国や自治体からの補助金である。日本のような損失補填的な補助金ではない。公共交通は税金や補助金主体の運営が根付いているのだ。

 さらに一歩進んで、運営費すべてを税金や補助金で賄う都市もある。つまり運賃は無料だ。しかもレアケースではなく、少しずつ増えている。

 その中から筆者が訪れたのは、国の首都として世界初の無料化を実現した北欧エストニアのタリンだ。ここは2013年から、路面電車、トロリーバス、バスの運賃を市民に限り無料にしている。

 担当者によると、導入のきっかけはリーマンショックだった。エストニアの国内総生産(GDP)は18か月で約20%下落し、タリン市民からは公共交通の運賃が重荷になっているという声が寄せられた。そこで無料化に踏み切ったという。

 もっともそれ以前から、タリンの公共交通は収入の72%が補助金だったので、これを90%に増やし、残り10%は観光客を含めたタリン以外の居住者が賄うという計算だった。無料化にはマイカー削減という目的もあったので、同時に駐車場の料金を引き上げた。

 財源には個人所得税を充てた。公共交通は住民のための交通という位置付けだからだ。無料化で住民を増やし、税収増につなげようという目論見だった。

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