「公共交通無料」は現実的なのか? 人口&税収増の都市も 狙いは回遊促進だけにあらず

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海外の街では、公共交通を運賃ではなく税金や補助金で賄っている例が少なくない。路面電車やバスを無料にした結果、人口や税収の増加につながったケースもある。公共交通の無料化の経緯や狙いを解説する。

無料化で「予想以上」の結果に

米国ピッツバーグの路線図は、「FREE FARE ZONE」(運賃無料ゾーン)が示してある(森口将之撮影)。
米国ピッツバーグの路線図は、「FREE FARE ZONE」(運賃無料ゾーン)が示してある(森口将之撮影)。

 結果は予想以上だった。2012年からの5年間で、人口は41.6万人から45万人になった。税収は一人1000ユーロで計算すると、3000万ユーロ以上増えたことになる。市民が支払っていた運賃は毎年1200万ユーロぐらいなので、税収増加分が大きく上回った。

 そこでタリンでは増加分をサービス向上に振り向けた。2013年までは約10年だったバス車両の平均車齢を約7年にするとともに、路面電車は車両の半分が新型の低床車になり、さらに空港への延伸が実現した。

 筆者が訪れた都市ではこれ以外に、オランダのアムステルダム、米国ピッツバーグで公共交通無料化を実施していた。アムステルダムはフェリーのみが対象で、乗用車やトラックで利用すると有料だが、徒歩や自転車、モペッド(原付)の利用は徒歩と同じ無料になる。大阪市の公営渡船に近い対応だ。ピッツバーグはダウンタウン(繁華街)のみ路面電車とバスを無料にして、まちなかの回遊効果を促していた。

 一国すべて無料とした国もある。欧州の小国ルクセンブルクだ。こちらは2020年3月に実施された。タリンとは違い、観光客を含めた全利用者に適用される。

 ルクセンブルクでは導入と同時にコロナ対策のロックダウンが始まったため、それまで1日平均3.1万人いた路面電車の利用者は1400人にまで減少したが、1年後の2021年3月にはテレワークを継続する事業者が多いにもかかわらず、1日平均3.8万人を記録したそうだ。

 筆者は、移動には相応のコストを支払うべきと考える。しかし都市の公共交通は、学校や図書館と同じように市民サービスという側面もある。マイカーによる交通渋滞や環境悪化を考えれば、無料化という方向性は納得できるものだ。

 だから欧米では複数の都市がこの手法を選択しているのだろう。そして日本でも、厳しい条件の中で無料公共交通を導入した自治体がある。財源はどうなのかなど、機会を改めて紹介することにしたい。

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