ビッグモーター問題の本質! 反社でもない真面目な社員が、なぜ「組織悪」に加担したのか? 経営陣の糾弾だけでは再発を招く
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なぜ辞めないのか

多くの人の疑問は
「そんな会社をなぜ辞めないのか」
ということだ。
今の労働市場は、求人倍率も中途採用は2倍を超えるほどの「売り手市場」だ。マネジメントの悪を受け入れがたいのであれば、転職することも難しくはなかったのではないか。
いわゆる「ブラック企業」の問題においても「辞めればいいじゃないか」と素朴に思う人がいるが、今回の件でも同様の疑問がインターネット上などでもあふれている。また、
「結局のところ、実力主義で高い年収を得られるということに目がくらんで、不正に目をつぶっていたのではないか」
という厳しい声もある。しかし、全社員がそうだというのは私(曽和利光、人事コンサルタント)には信じがたい。
健常な状態ではない可能性

ここでひとつの調査を紹介する。少し昔になるが、2014年に労働組合の中央労働団体である日本労働組合総連合会が行った「ブラック企業に関する調査」だ。
同調査によると、自分の働く企業がブラック企業だと思うと回答したのは
「4人にひとり」
20代では3人にひとりだった。
ところがブラック企業だと感じている人の約半数もの人が
「誰にも相談したことはない」
と答えていた。さらに、彼らの8割の人が
「心身の不調を感じる」
とも回答している。
つまり、心身ともに健常とはとてもいえない状態である可能性があるということだ。つまり、今回の件でも、多くの人は正常な判断ができなかったのではないだろうか。
どんな思考が起こりやすいのか

うつ病では思考の障害が起こることが知られている。例えば、そのひとつは「思考抑制」と呼ばれ、思考の進み方が鈍くなり
「頭が働かない」
「考えがまとまらない」
「決断できない」
というものだ。
もし、この状態になっているのであれば、上からの指示が理不尽なもの、悪いものであったとしても、それに対する反論ができないと思われる。また、ほかにも「悲観的思考」と呼ばれ、身の回りで起こるすべてのことを
・悲観的
・自責的
・自罰的
に考えてしまうというものがある。ふつうの思考ではないが、
「売り上げが悪いのは自分のせいだから、悪をなしてでもなんとかしなければならない」
と思ったかもしれない。