ビッグモーター民間車検「指定取り消し」が業界に落とした大きな影 日本の「性善説」はもはや消え去ったのか、罰則強化で本当にいいのか? という根源的な問い
不正行為の常態化が生んだもの

2023年6月、ビッグモーター宇都宮南店(栃木県宇都宮市)に併設された整備工場が関東運輸局により行政処分を受けた。内容は指定自動車整備事業指定取り消しだ。
また、同時に勤務する自動車検査員ふたりの解任命令も出された。なお、指定自動車整備事業工場とは、いわゆる
「民間車検場」
である。
指定取り消しと検査員解任の理由となったのは、関東運輸局による監査で過去2年間の間に58台の不正車検を行った道路運送車両法違反だ。違反の具体的な内容は、完成検査で実施しなければいけない速度計誤差検査の未実施だった。
ここで思い出すのは、2023年3月に起きたビッグモーター熊本浜線店(熊本県熊本市)での同様の指定取り消し処分だ。理由はこのときも、速度計誤差検査未実施だった。このことは何を意味するのか。要するに、通常より手間の掛かる検査では、
「規定を無視する」
という不正行為がビッグモーターで常態化していたのだ。
自動車整備業界の仕組み

ここで、日本における
・自動車整備業界
・車検制度
との関係について、一度整理しておこう。
まず、自動車整備工場には各地方運輸局長が出す認証によって4種類がある。
1.認証工場:道路運送車両法で定める分解整備に対応した設備と人員を備えている
2.特定整備認証工場:以前からの認証工場に加え、電子装備などに対応している
3.認定工場:設備や技術などが優秀であるとの認定を受けている
4.指定工場:認証工場のなかでも、工場内で車検を通せる
指定工場は一般的に民間車検場と呼ばれる。日本自動車整備振興会連合会のデータによると、それぞれの総数は、2022年4月末の時点で
・認証工場:9万1790
・指定工場:3万118
・認定工場:2608
で、認証工場のおよそ1/3が指定工場になっている。
指定工場には、ひとり以上の資格を有する自動車検査員の配置が必須だ。先の統計データでの全国の自動車検査員の総数は9万6927人となっている。各指定工場で
「平均3人」
が配置されている。特定整備認証工場については制度が導入されたのが2020年と近年のため、統計データはまだない。