「EVシフト」勢い止まらず 日本が“後出しジャンケン”で負ける根本理由
急速に進むEVシフト
中国の自動車産業政策の転換、パリ協定、欧州OEMのディーゼルゲートが起こった2015年を電気自動車(EV)シフト元年として、EV市場は急速に拡大してきた。
2022年には世界で年間約770万台が販売され、乗用車市場に占めるEV比率は10.7%に達した。
2022年の世界のエンジン車市場では、日系ブランドは32.5%のシェアを占めており、非常に大きな存在感を示している。しかしその一方で、世界のEV市場では、日系ブランドは
「2.5%」
しかシェアを獲得できておらず、残念ながら出遅れている。
EVシフトに日本はなぜ出遅れたのか
なぜ日本はEVシフトに出遅れてしまったのか。
ひとつ目の理由は、「日系メーカーの主要市場がEVシフトを推進していなかった」ことにある。日系メーカーは、日本・北米・東南アジアをメイン市場としているが、これらの地域は政府がEVシフトを積極的に進めてこなかった。
EV市場エリア別シェアでみると、これらの市場は欧州・中国に比べて構成比が小さい。逆に、日系メーカーのプレゼンスが相対的に低い欧州や中国市場では、EVシフトが積極的に推進され、EV市場が拡大したのである。
ちなみに、
・EV市場エリア別シェア
・EV市場ブランド別シェア
のグラフを比較すると少し似ていることがわかる。自国のEV市場には自国の自動車メーカーがEVを供給するからだ。ただ、エリア別シェアに比べて、ブランド別シェアでは、米系が少し多く、中国系が少なくなっている。これはテスラが中国市場で販売台数を稼いでいるためである。
ふたつ目の理由は、「日系メーカーがEVシフトの実現を無理筋(頓挫する)と思っていた」ことにある。簡単にいえば、EVはガソリン車に比べて性能が低いのに価格が高いから売れるはずがない。さらに、EVは充電に時間がかかるし、雨天での充電作業など、消費者が受け入れ難いオペレーションもあるので、なおさら消費者には受け入れられないだろうという意見もあった。
三つ目の理由は、「EV市場が立ち上がったとしても電動車技術では先行していたため、追随は可能だと思っていた」ことにある。トヨタ・ホンダは2000(平成12)年以前にハイブリッド車(HEV)を商品化しており、モータ・インバーター・電池という電動車のコアテクノロジーを手の内にしていた。また、それ以降のHEVの量産により、コスト低減も実現しており、日系メーカーは電動車技術について他のOEMに比べて、圧倒的に優位だった。
これらの理由については、日系メーカーを責めているわけではなく、それどころか、筆者(風間智英、経営・戦略コンサルタント)自身も当初は同じ考えに立っていた。しかし、欧州は地球温暖化という社会課題を錦の御旗に、カーボンニュートラル(CN)という「新たな競争軸」を持ち込み、世界を巻き込んだ。
欧州自動車メーカーも呼応するように、EVキャンペーンを展開した。これによって、ふたつ目の理由に示した「経済合理性を軸に立案した戦略シナリオ」が少々陳腐化してしまった。
そういえば、トヨタがHEVを市場に投入した際も、経済合理性が成立していないにも関わらず、日本ユーザーはHEVを購入し、海外からは不思議がられていたことが思い出される。