「立って乗る」車いす、知ってる? 筑波大学発の企業が開発、下肢障がい者の大きな助けに
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モビリティで自由になる

Qoloの立って乗る車いすは手元のスティックで操縦して、モーターで移動する。その特徴は、起立をアシストする機能に電気を使わず、機械的な仕組みで実現しているところだ。Qoloが起立をアシストするのに用いているのは「ばね」。圧縮されたガスの圧力を利用したガススプリングだ。
座っているときはガススプリングが圧縮状態でロックされている。いわゆる、バネが縮められた状態だ。そして立ち上がるときにはロックを外し、ガススプリングが伸びる力で起立をアシストする仕組みになっている。座面が姿勢変化に連動して動くため、バランスを取りながら立ち上がれる。
また、立った状態から座る際には、座面に体重をかけるとガススプリングが縮まっていき、体重を支えながら座位への移行ができる。下肢の力が落ちた人だけでなく、下肢まひの脊髄損傷患者でも立ち上がることができることを確認している。
構造はとてもシンプルに思えるが、これを形にしようとなると話は別だ。実は人間が立ち上がるという作動は簡単に見えて大変複雑なのである。重心を巧みに移動させバランスを保ちながら立ち上がる。しかも障がいを抱えている場合、バランスを保てる姿勢変化の許容範囲が狭いのだ。
そこで同社は開発にあたり、目指すべき立ち上がり方のモデルをコンピューター上でシミュレーション。無理なく胴体を倒しバランスを保てるような立ち上がり方をモデル化した。次にモデル化した動きで立ち上がるため、必要なアシスト力を探った。ばね定数や反発力、スプリングの特性、車いすへの取り付け位置と回転軸の位置関係などのベストの組み合わせを見いださなければならない。およそ200万通りの組み合わせをコンピューターでシミュレーションした。
最初の試作機は2014年に国際デザインコンテスト「ジェームズダイソンアワード2014」の国際選考で準優勝に輝いた。しかし、それで終わりではない。身長や体重は人によってバラバラなうえに障がいの度合いによって必要なアシスト力も異なるため、同社は度重なる試作を続けていった。
その後5号機となる最新の試作機では、個々のバリエーションに対応するため、ガススプリングの片方の取り付け位置をスライドして調整できるようにした。さらに、旋回時の重心を座位・立位ともに頭の位置に合わせるように工夫。これにより、自分を軸に回っているという感覚で回れるのだ。江口氏も
「モビリティとしての使い勝手や快適さを追求する段階にようやく差し掛かってきた」
と評価している。また、
「つけていることを忘れるくらいのモノができれば、QOLを高めることもできる」
とも話している。
2021年8月には、DEFTA Partnersと提携して6000万円の資金調達に成功。広沢技術振興財団や厚生労働省などからの助成も受けている。最初はレンタルでの提供を視野に入れており、個人ユーザーではなく医療機関や障がい者を雇用する企業などを対象に想定して、2023年後半のサービスインが目標だ。
立ち上がる自由を提供するQoloをはじめ、今後福祉の分野でもモビリティの活躍の場は広がるだろう。障がいを持つ人たちも含め、さまざまな人が自由への扉を開くのを可能にするモビリティのさらなる発展を応援したい。