低所得者を襲う「エコ意識」 カーボンプライシング自体は超重要も、導入に求められる最適方法とは

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地球環境問題への対応は、自動車業界をはじめさまざまな業界でますます求められていくと予想される。では、いったいどのような制度設計を行えば、効率的に環境の改善を成し遂げていくことができるのだろうか。

カーボンプライシングに潜む「逆進性」

有村俊秀・日引聡『入門 環境経済学 新版』(画像:中央公論新社)
有村俊秀・日引聡『入門 環境経済学 新版』(画像:中央公論新社)

 このように「カーボンプライシング + 排出量取引」には温室効果ガスの削減効果が期待できるが、いくつかの問題もある。

 まずはカーボンプライシングが

「逆進性」

を持つという点だ。ガソリン価格の上昇は低所得者に大きな影響があり、低所得者は省エネ製品への買い替えも困難だ。2019年にフランスで起こった「黄色いベスト運動」の背景にも炭素税への低所得者からの不満があった。カーボンプライシングの導入にあたっては、税収を何らかの形で低所得者へと還元することが必要になる。

 もうひとつが、カーボンプライシングが進んでも、そうした制度のない国外で二酸化炭素の排出量が増えたり、国内の産業の競争力が失われたりすることだ。

 この対策として考えられているのが、輸入品にカーボンプライシングを課す国境炭素調整だ。現在、欧州連合(EU)がこの国境炭素調整メカニズムに向けて動いている。自由貿易の推進という点からは逆行する面もあるが、著者らはトランプ大統領以降、反グローバリズムの流れが強まったことによって、こうした制度の提案が可能になったと見ている。

 EUの制度では、輸出国がカーボンプライシングを導入していれば、その分負担がなくなる。この場合、十分なカーボンプライシングが導入されていない日本は不利になる。カーボンプライシングの導入という点では日本は韓国や中国にも後れを取っており、排出量取引の制度も含めて立ち遅れている状況だ。

 著者らは、完璧な制度でなければ導入しないというのではなく、まずは制度を導入し、課題に直面すれば、その都度、適宜修正していくことを提案している。

 本書は、この他にもゴミ問題などもとり上げており、環境経済学の基本的な考えを学ぶことができるとともに、日本が現在直面している環境問題とその対策についても学べる内容になっている。

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