蒲蒲線は本当に必要か? 4月当選の新区長は推進派も、慎重・反対派の合計票数大きく下回る現実 そもそも地元民にメリットあるのか
退席を促された反対派議員

選挙期間中を通じて、反対派のおぎの氏が何度も触れていたのが「蒲田駅周辺のまちづくり等に関する意見書」だった。この意見書は2019年11月、大田区議会が東京都知事に対して提出したもので、
「新空港線と蒲田駅は、東京都にとっても重要であることは明らか」
として、蒲蒲線の促進を求めていた。当時、区議会で意見書を採決する際に反対票を投じたのは、おぎの氏と共産党系区議のみだった。このときのことについて、おぎの氏は選挙中、議長から採決前に
「反対でいいから退席してくれ」
と説得されたことを暴露している。ようは、共産党以外にも反対票があっては
「意見書として価値が落ちる」
ためだった。
多くの反対派区議は説得に応じて退席したが、おぎの氏はこれを拒否。結果、左派系以外でも蒲蒲線反対派が存在していたことを示すことになった。これが、蒲蒲線を疑問視する区民の投票行動を左右したと見られる。
多摩川線沿線住民「不便になる」

大田区民は、なぜ蒲蒲線に対して疑問視したのか。それは、生活が不便になることがわかっていたからだった。
とりわけ、東急多摩川線沿線住民の多くは例外なく「いらない」と考えている。同線の武蔵新田駅周辺などの人たちに聞いてみると、
「急行や快速ばかり走るようになって、不便になるに決まっていますよ。高架化とか地下化なんてされたら最悪です」
との意見が返ってきた。
かつての目蒲線のうち、もっともローカルな部分が切り離された多摩川線は、非常にのどかな路線だ。駅舎の多くはいまだに木造で、道路からじかにホームにアクセスできるため、乗降は極めて便利だ。車両は3両しかないが行き先は決まっているので、迷うことはない。
もしも、空港アクセス鉄道に生まれ変わるなら、長大な編成が停車するために駅の改造が行われるだろう。それは、沿線の大規模開発にもつながり、街の姿は完全に失われてしまう。
しかも、駅は羽田空港と渋谷をつなぐ優等列車(速達性や車内設備の優れた列車)が通過していくばかりとなれば、近隣住民に利便性などみじんもない。