トヨタ「新人事制度」を支える3本柱 「多様性」「成長」「貢献」が全く目新しくないワケ
多様性は「責任放棄」ではない
具体的に一部内容を見てみたい。
例えば多様性においては、社内公募の本格導入や社内フリーエージェント(FA)新設とある。これらの制度は既に1990年代に日本企業に広がったものであり、それから30年ほどたつ今になって本格導入するということで「逆にこれまではやってこなかったのか」との驚きもある。
しかし、その背景には人材育成を会社や上司の責任として考えていたトヨタの信念が見える。さまざまな会社が社内公募などを導入する背景には「自由と自己責任」の名の下に、
「会社が従業員に面倒をみられなくなったから、自由にさせてあげるのでその代わり自己責任で頑張ってください」
というものが多かった。トヨタはそうではなく、あくまで「徹底した人材育成」は会社の責任であるとしてきた。
そして今回も、その方針は前提としつつも、個々人の意思によるキャリア開発を行うことで現在の自動車業界の置かれた激変に対応するための多様性を組織として確保しようとしているだけなのだ。
成長は「選抜の論理」ではない
続く「成長」というコンセプトにも似たようなところが垣間見える。
トヨタの広報メディア「トヨタイムズ」によると、佐藤社長は
「多様な挑戦を後押しするために、年次や学歴ではなく、現在の能力やチャレンジに重きを置いた評価制度を来年から導入いたします」
と述べている。
年功序列を排除するということだが、これも
「いつの時代にはやった人事改革だろう」
「まだ年功的要素があったのか」
とも思える。ただ、これも裏がある。
多くの企業がバブル崩壊後、「チャレンジしない、成長しない者は去れ」として、新しい価値や能力を獲得しないことを理由として従業員をリストラしてきた。これは育成ではなく選抜の論理である。会社が従業員を成長させる育成責任を持つのではなく、成長しなかったら選抜に漏れるというわけだ。
しかし、トヨタは違う。先のトヨタイムズでも、佐藤社長は
「上を目指さない人は頑張っていないということではありません。大切なことは、それぞれの能力を発揮して、成長を実感しながら、自分らしく貢献していくことです」
と明言している。他者との比較や客観的物差しでの成長ではなく、あくまで自分が成長を実感しているかどうかが重要ということだ。成長は個の幸せのための手段と言っているのだ。