「免許なければどこにも行けない」 伸び悩む免許返納、高齢者バッシングの裏にある非情な現実を見よ
厳しい地方の現実

免許返納が進まないのはなぜか。まずこれについて触れておきたい。
警察庁の統計を基にニッセイ基礎研究所がまとめたリポートによると、免許返納率は2019年までは、増加傾向にあった。これは、制度の認知が広がっていったことや、高齢ドライバーの意識が変わりつつあったことを示している。運転技能に必要な各種能力が老化とともに衰えていくことを実感する人や、高齢ドライバーが起こした交通事故のニュースを見て、「明日はわが身」と危機感を覚えた高齢ドライバーが多かったこともあるだろう。
しかし、免許返納率は2019年をピークに、2020年、2021年と2年連続で減少した。リポートでは「コロナ禍で公共交通機関を避けた結果、自家用車の利用が増えたのではないか」と指摘している。
では、コロナ禍の出口が見えた今、返納率再び上昇傾向に転じるかというと、楽観はできない。なかなか免許返納に踏み切れない人たちもいるからだ。
それぞれに事情や理由は異なるが、「免許返納は老いを認めることになるので、心理的抵抗がある」や「ドライブが趣味なので、免許は返納したくない」など、言ってみれば“気分的”な要素を返納しない理由に挙げている人を見つけるのは難しい。免許返納をしない人のうち、その多くが、「自家用車という移動手段がないと、生活が成り立たない」人たちである。
例えば日用品の買い物なら、近年はネット通販が相当充実しているので、わざわざ車で出かけなくともいいかもしれない。しかし病院に行く、人と会う、習い事に行くなど、外出する用事は買い物以外にもあまたある。
「75歳以上の運転免許返納率」を都道府県別に算出した2022年データを、熊本日日新聞(電子版)が2022年9月21日に公表している。これによると、東京7.14%を筆頭に、神奈川6.01%、5%台の埼玉、静岡、大阪など都市圏が並ぶ。一方、下位は3%台の徳島、和歌山、長野などだ。交通の便が良く自家用車に依存しない生活が可能な東京では免許返納率が高く、反対に公共交通機関が発達していない地方では、車の必要性が高くなる。つまり返納率が低くなるということだ。
そうした地域に暮らす人にとって、車がない生活というのはなかなか考えにくい。一定数の高齢ドライバーは仕方なく、自分が運転することへの不安、および将来運転を続けていけるのかへの不安を覚えつつも、運転を続けざるを得ないのである。